おなかと内視鏡-がん治療における 内視鏡の役割

2022年12月08日(木曜日)

2022年6月の新病院移転に伴い、消化器疾患の診断・治療を行う「内視鏡センター」を新たにオープンしました。
今回は当センターでの診療内容(特に消化器がんに対して行う内視鏡による診断・治療)を紹介します。

消化器内科部長・内視鏡センター長 大野智之


消化管(食道、胃、大腸など)がんの診断・治療


早期がんの診断・治療

 直径1㎝、長さ1m 余りの内視鏡機器を、口や肛門から挿入します。その機能は、私が医師となって30 年近くの間に劇的に向上しています。解像度の上昇(ブラウン管モニター→ 4K パネルレベル)、拡大観察機能搭載(80 倍~500倍まで、光学顕微鏡レベル)、画像強調内視鏡技術の開発(光の波長を変換し、消化管の粘膜模様や血管、色調を強調する機能)に伴い、より早期の消化管がん(前癌病変を含む)の診断が可能となりました。
 内視鏡治療が可能と診断された症例については、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術) 等により治療を行います。いわゆる治癒切除(完全に取り切った)症例の生存率は極めて高く、5 年生存率は100%近くになります(図1)。
 また世間で流行している"AI" も内視鏡画像診断に導入されています。当院では、大腸がんや前がん病変であるポリープを機械で発見する機器(EndoBRAIN-EYE:OLYMPUS 社)を導入し、より見落としの少ない正確な診断を目指しています(図2)。


進行がんの治療(消化管ステント留置など)

 進行がんでは、消化管が狭窄し腸閉塞をきたすことがあります。この場合、内視鏡的に金属ステント( 形状記憶合金で作成された網目、筒状のもの)を挿入し、食事や便が通過するようにします(図3)。


胆管、膵臓がんの診断治療


超音波内視鏡(EUS)を用いた診断や治療(針生検(FNA)、ドレナージ術など)

 超音波内視鏡は、内視鏡の先端から超音波を発生することで消化管に接する臓器を観察することが可能になります。いわゆる腹部エコー(人間ドックなどで施行される体表からの検査)と比較して膵臓や胆道などの詳細な情報を得ることが可能になります。また、超音波ガイド下に組織採取を行いがんの確定診断を行います(図4の②)。近年、化学療法(抗がん剤治療)に際し、遺伝子情報を元に治療薬が選択されることもあり、極めて重要な検査です。また悪性腫瘍による胆汁排出障害に対してのドレナージ術なども行っています。


ERCP( 内視鏡的胆管膵管造影) および関連手技による胆膵悪性腫瘍に対しての治療

 がんによる症状はさまざまですが、胆膵悪性腫瘍では黄疸、胆管炎などを発症することがよくあります。この状態に対して一時的、あるいは(手術不能症例においては)永久的にステント(金属、プラスチック素材)を留置し、症状の改善を図ります(図4)。


がんの早期発見にむけてまずは検査を受けていただくことが大事です

 国内の消化器領域のがん罹患数、がん死亡数の順位はかなり高いのが実状です。早期発見、治療のために早めの対応(がん検診や人間ドックの受診、体調不良時の早期の医療機関受診)をお勧めします。


大野 智之 (おおの ともゆき)

消化器内科部長、内視鏡センター長
1980年第5向陽小学校卒業、1993年東北大学医学部卒業。いわき市立総合磐城共立病院勤務ののち1997年京都府立医科大学第3内科(現消化器内科)入局。大学ならびに関連病院勤務(国保京北病院、府立与謝の海病院、市立奈良病院、京都鞍馬口医療センター)、ポスドク(BaylorCollege of Medicine:Houston USA)を経て2018年4月より現職。 掲載の「京なでしこ」を見る

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