タバコのはなし
2025年11月21日(金曜日)「タバコは百害あって一利なし」なぜそういわれているのでしょうか?
肺がんになりやすくなるから?
肺が黒くなるから?
今回は、タバコのお話です。
呼吸器内科 副部長 張田 幸

タバコの何が悪いのか...みなさんご存じの通り、「煙」です。
タバコの煙には、有害物質が200種類以上、発がん物質が50種類以上含まれています。喫煙者が吸う主流煙とタバコの先端から出る副流煙とを比べると、副流煙の方がニコチンは2.8倍、一部の発がん物質は50倍以上も多く含まれています。
タバコの煙は、主に肺から吸収されますが、口からも吸収されます。煙に直接触れることで、肺がん、口腔・咽頭がん、喉頭がんが起こりやすくなります。煙に直接触れなくても、体内に吸収されると血液によって全身に運ばれるため、胃がん、食道がん、肝臓がん、すい臓がん、膀胱がん、子宮頸がんも起こりやすくなります。がん全体の4割はタバコが原因です。肺がんの場合、タバコを吸う人と吸わない人を比べると、吸う人の方が約4倍肺がんになりやすいことがわかっています。
がん以外でも、脳卒中や、タバコの煙によって肺の細胞が傷害され肺の機能が低下する肺気腫/COPD(慢性閉塞性肺疾患)、心筋梗塞、狭心症のような虚血性心疾患など命にかかわる病気を引き起こすリスクが高まります。
COPDが進行すると、息切れが強くなり、家の中や外出の時にも酸素吸入が必要になることもあります。

受動喫煙とは、タバコの先端から出る副流煙、喫煙者が吐き出す呼出煙を吸うことをいいます。受動喫煙によって、脳卒中や虚血性心疾患、肺がん、乳幼児突然死症候群が起きやすくなります。受動喫煙によって年間15,000人もの人が、これらの病気で死亡していると推計されています。
また、20歳未満の喫煙開始は、ニコチン依存、肺発育の障害、喘息が増えることがわかっています。

タールやニコチンの少ない、「軽いタバコ」といわれているタバコと通常のタバコでは、タバコ葉の量や質に違いはありません。フィルターにあいている穴の数が多くなっていて、吸う時に入る空気が増えてタバコの煙が薄まっているだけです。
軽いタバコでも、肺がんになるリスクは同程度ということもわかっています。「マイルド」や「ライト」という表現にだまされないでください。
近年は、アイコスやプルームといった加熱式タバコ、ベイプのような電子タバコを吸う人が増えていて、喫煙者全体の25%以上を占めています。若い世代、女性に多く、20~30歳代では半数近くを占めています。
加熱式タバコは、紙巻きタバコと比べると、煙に含まれる有害物質は少なく、副流煙が出ないため、健康被害が小さいような印象を持たれていますが、健康被害のリスクが低いという根拠はありません。喫煙者が吐き出す呼出煙には有害物質が含まれ、受動喫煙も起こりますし、将来的にどういった健康被害がでるのか、まだわかっておらず、数十年にわたる調査が必要です。
電子タバコは、「タバコ」といいつつタバコ葉は使用されておらず、専用のリキッドを加熱した蒸気を吸います。日本ではニコチンを含むものはなく、食品衛生法に準じた食品添加物を使用しています。体に悪くないように思えますが、食べるのと吸うのとでは意味が違います。食品添加物を吸って安全とは限りません。発がん物質が発生するものもありますし、喘息や電子タバコ関連肺炎をおこすこともあります。また、法律上はタバコでないため、20歳未満でも購入できます。そうすると、若年から紙巻きタバコへ手を出すきっかけになってしまいます。

タバコをやめると直後から、病気のリスクがどんどん下がります。
禁煙後5年で脳卒中のリスクが非喫煙者と同じになります。禁煙後10年で肺がんのリスクが喫煙者の約半分に低下します。
若い時に禁煙した方が、寿命が長くなることもわかっています。
- 20分以内→心拍数と血圧が低下する
- 12時間→血中一酸化炭素が低下し正常値になる
- 2~12週間→血液循環が改善し肺機能が高まる
- 1~9か月→咳や息切れが減る
- 1年→冠動脈性心疾患のリスクが喫煙者の約半分に低下する
- 5年→禁煙後5~15年で脳卒中のリスクが非喫煙者と同じになる
- 10年→肺がんのリスクが喫煙者に比べて約半分に低下し、口腔、咽喉頭、食道、膀胱、子宮頸部、すい臓がんのリスクも低下する
- 15年→冠動脈性心疾患のリスクが非喫煙者と同じになる
周囲に禁煙を宣言し、禁煙開始日を決めます。喫煙行動や習慣を見直し、吸いたくなる時の対処法も決めておきます。
タバコ、ライターを処分し、禁煙開始!
最近は禁煙アプリもあります。タバコを購入しないことで節約できた金額が表示されたり、禁煙仲間と励ましあえたり、モチベーションの維持につながるので、上手に利用するといいでしょう。
失敗してもいいのです。自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来を利用してください。失敗しても、何度でもチャレンジしてください。
タバコによる健康被害は多岐にわたります。大事なのは、「吸い始めないこと」「早くやめること」です。
健康被害を少しでも小さくするためには、禁煙しかありません。あなたとあなたの家族の健康のために、タバコのない生活をおくりましょう。
あとは、毎年健診を受けてください。胸のレントゲンも忘れずに。肺がんになる人の7割は70歳以上です。職場の健診は毎年受けていても、退職してから健診を受けなくなる人が多く、気づいた時には進行していることもあります。各自治体では毎年肺がん検診が実施されていますので、ぜひ受診してください。
呼吸器内科副部長
2005年京都府立医科大学卒業。社会保険神戸中央病院(現J C H O 神戸中央病院)、神戸労災病院、済生会滋賀県病院、京都府立医科大学附属病院を経て、2019年入職。
