「肝臓」について 知っていてほしいこと。
2026年06月01日(月曜日)沈黙の臓器「肝臓」。
知っているようで知らない肝臓の働きや病気、肝臓を元気にする秘訣を肝臓専門医が紹介します。
総合診療内科・消化器内科 副部長 渋谷 明子
肝臓は体内で一番大きな臓器でありながら日々黙々と働き、縁の下の力持ち的な存在です。今回はその肝臓の大切さを知り、これからは今までよりもちょっと肝臓を大事にしてもらえると嬉しいです。
肝臓は生体内の化学工場と呼ばれ、何千種類もの酵素を使って500種類以上の化学反応を同時に行っています。栄養素の合成や貯蔵、有害な物質の解毒、消化液の合成など多種多様な働きがあり、肝臓と同じ働きをする化学工場を人間は未だ作ることができないといわれています。肝臓が元気でいることは、身体にとってとても大切なことなのです。

肝細胞が壊れて肝数値が上昇する病気として、アルコール性肝障害、脂肪肝・脂肪性肝炎、ウイルス性肝炎、薬物性肝障害、免疫異常による肝炎などがあります。肝臓は再生能力が高く、元気な肝臓なら70%を切除しても数か月で元の大きさと機能に回復します。しかし、肝炎が持続すると肝細胞は再生できず徐々に減少し、肝臓は線維が増えて硬くなり、積み重なると肝硬変・肝不全に至ります。慢性炎症が起こった肝細胞からは肝臓がんもできやすくなります。
肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、肝炎や肝硬変、肝臓がんになっても初期であればほぼ自覚症状は出ません。重症の肝炎、進行した肝硬変や肝臓がんになって初めて、身体のだるさ、食欲低下、四肢のむくみ、皮膚の黄染、腹水による腹部膨満などの自覚症状がみられることが多いです。そのため、自覚症状がないからといって肝機能異常を放置していると、自覚症状が出た時には取り返しのつかない状態になっている場合もあります。逆に、「疲れがとれない」「朝の目覚めが重い」「筋力や体力が落ちた」「肌の調子が悪い」「太りやすい」「やせない」など、年齢や運動不足のせいだと感じている普段の体調不良が、実は肝臓の働きが低下していることが原因である可能性もあります。
まず、肝機能障害の原因となりうることはなるべく避けましょう。具体的には多量飲酒、肥満、サプリメントの多量摂取などです。
アルコールは、肝炎や肝硬変・肝臓がん以外にも多くの疾患の原因となります。食道・口腔・喉頭・胃・大腸・乳房などのがんの発症リスクも上げます。依存性も高く、脳の萎縮やビタミン不足による認知症も発症しやすくなります。お酒は百薬の長ではなく、摂取量が少なければ少ないほど健康障害も少ないということが最近の研究で報告されています。
一日の飲酒量を控えめにし、連日飲酒も避け、時々の特別な時間を楽しむためのものとして付き合うことをお勧めします。

食生活では、良質なたんぱく質(大豆、魚、鶏肉など)が肝細胞の再生に必須です。野菜の抗酸化ビタミンは肝臓の化学反応で生じた活性酸素による肝細胞のダメージを防ぎます。脂質や糖質のとりすぎ、寝る前の食事、朝食抜きは脂肪肝の原因になります。
睡眠も大事です。人間の身体は約24時間周期のリズムがあり、肝臓もそのリズムに合わせて働き方が変わります。日中の活動時間は栄養素の合成・貯蔵、解毒などが活発となり、夜間・睡眠中は貯めたエネルギーの放出、肝細胞の修復などが活発になります。
7時間程度の睡眠を毎日同じ時間にとると、肝臓の化学反応リズム(代謝リズム)がよくなり、脂肪がきちんと分解されて太りにくい体質になり、解毒や肝細胞再生が効率的に行われて朝の疲労やだるさの回復がよくなり、肌質の改善効果も期待できます。
筋肉は第2の肝臓と言われていて、肝臓の機能を補い、肝臓の負担を軽減する働きがあります。肝機能が低下して肝臓にエネルギーを貯められなくなると、エネルギーが必要な時は肝臓の代わりに筋肉がエネルギーとして使われるため筋肉量も減少しやすくなります。良質なたんぱく質を摂取して適度な運動を行い、筋肉量を落とさないことも肝臓にとってとても大事です。

これらの日常生活を心がけていても、別の原因で肝機能障害が生じることもあります。先に述べたように、肝機能障害は自覚症状が出にくいため、定期的に健康診断で血液検査を受け、肝機能異常がないかを確認しましょう。肝機能異常の原因が分からない場合は、肝臓専門医を受診して原因を調べてもらいましょう。
肝炎が持続すると肝硬変や肝臓がんになりやすいため、肝炎を改善させることが肝硬変、肝臓がんの予防になります。
肝機能検査は、現在の肝臓の炎症の程度を示すものであり、例えば禁酒してしばらくすると肝機能検査は正常化することが多いです。しかし、長期間慢性的に肝臓に生じたダメージは元に戻らないことが多く、血液検査などではダメージの程度の判断が難しいため、現在の血液検査がほぼ正常でも肝機能が実はかなり低下している、ということもありうるのです。そのため、慢性的な肝炎が起こらないように日ごろから注意して生活することが大切です。
- 飲酒はひかえめ
- 肥満防止
- たんぱく質、野菜はしっかり摂取
- 脂質、糖質はひかえめ摂取
- 規則正しい7時間程度の睡眠
- 適度な運動で筋肉を落とさない
- 定期的に健康診断
- 肝機能異常があれば放置せず原因の検査と対策
慢性肝炎の原因として、B型・C型肝炎ウイルス感染があります。以前は難治性の病気でしたが治療が進歩し、内服薬でウイルスを消失させたり肝炎を改善させたりすることがほとんどの場合で可能となりました。B型肝炎ウイルスは肝機能異常がなくても慢性感染により肝臓がんを発症することがあります。C 型肝炎は過去(1989年発見以前)の輸血や注射、針治療などでの感染が多いですが、B型肝炎は母子感染や性的接触などでも感染するため知らないうちに感染していることが多いです。
もし、健診で肝機能異常や肝炎ウイルス検査陽性を指摘された場合や、ご家族にウイルス性肝炎の方がいらっしゃる場合は、放置せずに医療機関にご相談ください。
総合診療内科・消化器内科 副部長
1998年京都府立医科大学卒。京都府立医大病院、京都第一赤十字病院、京都府立医大大学院を経て2005年より現職。京都府立医大消化器内科学教室の肝臓研究室に所属。総合診療内科、消化器内科として一般内科診療を行うと共に、肝臓専門医として肝疾患の診療に従事。日本内科学会認定内科医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本肝臓学会認定肝臓専門医、日本消化器病学会認定消化器病専門医。
