気になる胸やけ胃もたれ胃痛

2020年02月01日(土曜日)

食後や明け方の胸やけは要注意 潰瘍は消炎鎮痛剤でできることも 検査が異常なしでも症状が持続

済生会京都府病院 院長 吉田憲正

食後や明け方の胸やけ 逆流性食道炎かも
 胃酸が食道に逆流するために胸やけや胃もたれが起きる逆流性食道炎は、40~50歳代を中心に消化器系で今、最も多い病気です。症状はあっても粘膜のただれや炎症がない場合(非びらん性胃食道逆流症)も多く、それも含めて胃食道逆流症とも呼ばれています。食生活の欧米化やストレス、肥満の増加などで日本での患者数は増え続け、オレンジやグレープフルーツのジュースなど柑橘類を多くとることで悪化する場合もあります。
 病気かどうかは、医師による問診と内視鏡を使った検査で分かります。1週間に2回以上、胸やけを感じるなら、病気を疑ったほうがいいでしょう。
 治療には胃酸の分泌を抑える2種類の薬が使われ、これで80~90%の人の症状は抑えられます。さらに、脂っぽい食事やアルコールを避け、満腹まで食べない、減量、禁煙するなど生活習慣の改善も大切です。背中が曲がっていると、物理的に逆流が起こりやすいので、姿勢も気をつけたほうがよく、夜、寝るときに枕を高くするのも、ひとつの方法です。

胸やけってどんな症状?
 胸やけといっても、実際には胸よりも胃への症状として感じることが多く、胸が熱い、痛いと感じる人もいます。逆流した胃酸が食道を通過して喉まで上がり、喉が痛い、咳が止まらないなどの喘息症状を訴える患者さんも少なくありません。

症状胸やけ、げっぷ
口の中に酸っぱい液がこみあげる
胸の痛み、胃もたれ、のどの痛み、声のかすれ
咳、喘息、耳の痛み
〈逆流性食道炎のしくみ〉
食道から胃につながる部分は「下部食道括約筋」という筋肉で締められていて、胃の内容物が食道側に逆戻りしないようになっている。逆流性食道炎は、食生活や肥満などでこの筋肉が緩んでしまうために起きる。また、高齢で腰が曲がると、胃が胸のほうにせりあがってしまう「食道裂孔ヘルニア」が原因となる場合も多い。

胃カメラ検査の必要性
 胸やけや胃もたれがある人では、潰瘍やがんの有無をチェックするために、内視鏡(胃カメラ)による検査が必要です。粘膜に特殊な光を当てて検査できる最新の機器(当院でも使用)なら、通常の内視鏡では見落としがちな早期がんも発見できる可能性が高いです。
 一方、麻酔を使って検査を行う施設も増えています。当院でも、希望者の一部には鎮静剤の静脈注射を使うこともあります。検査後、麻酔が醒めるまで休む必要はありますが、患者さんの負担は軽くなります。医療者側にとっても咽頭反射や体動が強く、検査に支障をきたす患者さんには、充分な観察を行うためにも使用するメリットがあります。

痛み止めが胃を傷める
 胃潰瘍や十二指腸潰瘍でピロリ菌に次いで重要な原因は、痛み止めや解熱剤などのお薬です。アスピリンや整形外科などで処方されるジクロフェナクやロキソプロフェンなどの非ステロイド消炎鎮痛剤(NSAID:エヌセイド)の長期常用は潰瘍の原因となります。抗血栓剤などを併用している人では、出血しやすい潰瘍ができやすいため要注意です。最近では、健康保険で使用できる潰瘍予防薬もあるので病院で相談してください。

胃の中のピロリ菌
 ピロリ菌感染者は胃潰瘍や十二指腸潰瘍だけでなく、胃がんになりやすいことが知られています。除菌が浸透していない15年以上前では、50歳以上の日本人の70%が感染していました。潰瘍があってピロリ菌が陽性なら、除菌することで再発はほとんど防げます。
 2013年2月より潰瘍のない慢性胃炎でも感染検査(便、尿、呼気や生検検体を使用)や除菌が健康保険の適用となりました。除菌方法は、酸分泌抑制剤とペニシリンを含む2種類の抗生剤を1週間飲みます。これで除菌できなければ抗生剤を1 種類だけ変えてもう1週間治療します。これでも除菌できない人には、保険外(自費)診療になりますが、3次除菌の選択肢がありますので、希望される方(ペニシリンアレルギーを有する方を含む)はピロリ菌感染症認定医のいる医療機関にお問い合わせください(当院では吉田)。除菌すると、将来胃がんになる確率も減りますが、完全ではありません。除菌後胃がんになることも少なくないので、しばらくは定期的な内視鏡検査を受けることが重要です。

〈ピロリ菌感染と胃十二指腸疾患〉
〈消化管疾患の分類と主な疾患〉

検査が異常ないのに症状あり?
機能性ディスペプシアという病名を聞いたことがあるでしょうか。内視鏡検査をしても、粘膜になんの異常もないのに、胃もたれや胃痛が起こる病気のことです。昔は、神経性胃炎や胃けいれんなどと呼ばれていました。原因としては、胃の運動異常や知覚過敏、胃酸過多などが想定されています。治療としては、消化管の運動機能を改善する薬や食道炎でも使われる酸分泌抑制剤の他に、漢方薬や抗不安薬を使用することもあります。命に関わる怖い病気ではありませんが、慢性的な症状が続き生活に支障をきたすこともあるため、消化器専門の医師とよく相談して治療を受けることが必要です。

吉田憲正 (よしだ のりまさ)

済生会京都府病院 院長。消化器・内視鏡、特に食道、胃、腸の病気が専門。
1980年京都府立医科大学卒業、第一内科入局。ルイジアナ州立大学医学部留学、武田病院消化器内科部長、京都府立医科大学講師を経て、2009年京都第一赤十字病院副院長・消化器センター長、2019年10月より現職。京都府立医科大学臨床教授、日本消化器病学会財団評議員など兼務。 掲載の「京なでしこ」を見る

カテゴリ:

  1. 全ての一覧

ページ
先頭へ