増加する膵がん-危険因子を意識してください-

2020年05月01日(金曜日)

済生会京都府病院 統括副院長 外科部長
藤 信明

 平成29年の厚生労働省人口動態統計によるとわが国の死因別死亡率は、1位が悪性新生物〈腫瘍〉、2位が心疾患、3位が脳血管疾患、4位が老衰、5位が肺炎です。悪性新生物〈腫瘍〉は上昇を続け、2位の心疾患の約2倍です(図1)。
部位別のがんの死亡率では膵がんは、男性では5位、女性は3位で、男女とも上昇傾向にあります(図2、図3)。さらに、本膵癌学会の膵癌登録報告2007によると、膵がん患者の約8割はStageIV(Stage: 癌進行度を表し、1→II→III→IVと進行)で、手術での切除率は40%程度です。つまり、膵がんの予後が良くないことが簡単に想像できます。
実際、全膵がんの5年生存率は約10%(MST生存期間中央値は10ヵ月)、切除例でも5年生存率は約15%(MST生存期間中央値は18ヵ月)にとどまり、「いかに早い段階で膵がんを見つけることができるか」が現在の課題です。

膵がんの危険因子(リスクファクター)に特徴

 膵がんを疑う症状は腹痛、腰背部痛、黄疸、体重減少などがありますが、すでにがんが進行している可能性もあります。膵癌診療ガイドラインの整備が進められ、ようやく膵がん領域においても危険因子が明らかになり(図4)、予防や治療に明るい兆しが見えてきました。最も重要なことは、超音波検査で軽度の膵管拡張や膵嚢胞などの軽微な膵がんの可能性を捉えることです。また、表に示すような危険因子に該当する方は定期的な検査が望ましいです。家族が膵がんになった方や、喫煙、多量飲酒される方も危険因子にあたります。
ただし、喫煙は肺がんに、飲酒は肝がんや肝硬変になるリスクが膵がんよりもはるかに高いのが現状です。

特に、糖尿病、膵嚢胞(IPMN)、慢性膵炎に要注意

 危険因子のなかで合併疾患のある方、とりわけ、糖尿病、膵嚢胞、慢性膵炎は特に注意が必要です。膵がん患者の既往歴では糖尿病が26%と最も頻度が高く、糖尿病の新規発症や糖尿病の増悪は膵がん発見のマーカーと位置づけられ、膵がんのリスクは2倍です。次に、膵嚢胞(IPMN膵管内乳頭粘液性腫瘍を含む)です。IPMN由来に浸潤がんが発生することがありますが、IPMNや膵嚢胞が存在する全膵自体が膵がんのリスクにさらされている状態であるという認識になっした。膵嚢胞のリスクは22.5倍と桁違いに高値で、IPMNと診断されない膵嚢胞で慎重な経過観察が必要です。慢性膵炎は膵がん発生頻度からは4%とそれほど高くはありませんが、リスクは13倍と高値です。

一時的な上腹部痛の際は上部内視鏡だけではなくて腹部超音波検査を、
糖尿病の発症や増悪の際は腹部超音波検査を、

 腹部超音波検査をすれば微小な膵がんが発見できるというわけではありません。しかし、腹部超音波検査で軽度の膵管拡張や膵嚢胞が認められたら、次のステップに進むことができ、膵がんの早期発見につながる可能性があります。実は、これが非常に重要だと、日本のいくつかの臨床医から報告されるようになりました。
 次のステップとは、初めは侵襲が少なく外来で行える検査MDCT(多列検出器型CT)やMRI、MRCP(胆管膵管撮影)などを行い、さらに検査が必要な場合は、入院でERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を行います。
最近では、EUS(超音波内視鏡)(図5)という検査が比較的、体に負担なく実施でき、膵がん診断には極めて有用です。この検査は、文字通り超音波装置を伴った内視鏡で、消化管の中から消化管壁や周囲の臓器などの診断を行う検査です。この検査も胃カメラと同じく口から内視鏡を挿入します。
通常の胃カメラでは消化管の表面しか見ることができませんが、超音波により組織の内部の観察が可能です。またEUSは体の表面からのエコー検査と異なり、胃や腸の中の空気や腹壁、腹腔内の脂肪、骨がエコーの妨げになることがなく、目的の病変(特に胆道や膵臓)の近くから観察でき、より詳細に病変の情報を得ることができます。2020年の4月からは、当院でもEUSができる体制が整いましたので、かかりつけ医の先生にご相談ください。

 膵がんは、残念ながら胃がんや大腸がんや肝がんの治療成績までには至っていません。膵がんの危険因子をみなさんに認識していただき、早期診断、早期治療につなげたいと思います。

藤 信明 (ふじ のぶあき)

済生会京都府病院 統括副院長、外科部長。消化器外科、腹腔鏡手術、肝胆膵手術。
1990年京都府立医科大学卒業、第二外科入局。京都府立与謝の海病院、京都第二赤十字病院の勤務を経て、2014年に済生会京都府病院に赴任。
2019年10月より現職。京都府立医科大学臨床教授、日本臨床外科学会評議員、日本肝胆膵外科学会評議員など兼務。 掲載の「京なでしこ」を見る

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