認知症とともに生きる―認知症ケア・せん妄対策チーム

2022年02月01日(火曜日)

当院では、医師や看護師、メディカルスタッフがお互い専門性を生かし、チームで患者さんやご家族の支援に取り組んでいます。
このような取り組みを「チーム医療」といいます。今回は認知症ケア・せん妄対策チームをご紹介します。

認知症看護認定看護師 中曽根 朱美

 2025年の認知症者数は700万人と推定され、65歳以上の5人に1人が認知症と診断されると予測されています。この数値は、これから認知症を特別なものとして捉えるのではなく身近なものとして「認知症とともに生きる」ということを表していると言えます。
 当院では、認知症ケア・せん妄対策チームを結成し、入院患者さんを対象に2020年10月から活動を開始しました。認知症ケア・せん妄対策チームは、医師、看護師、社会福祉士、薬剤師、作業療法士、管理栄養士、事務とさまざまな職種で構成されています。それぞれの専門性を活かし、認知症の方を多方面から理解することで、その人らしい生活が送れるように支援をしています。
 認知症の方や認知機能が低下した方々が、安全に安心して治療を受けられるようにチームで話し合いをしたり、各病棟を巡回したりしています。認知症の方と話をしながら、よりよいケアが提供できるように病棟看護師とも話し合いを重ねています。
 認知症の方は何もわからない、何もできなくなると思われがちですが、苦手なことが増えただけで、具体的な説明を繰り返したり、見守りの時間を少し長くしたりすることで、できることはたくさんあります。苦手なことは補い、得意なことは積極的にご自身に任せることが重要となります。このようにその人自身の「もてる力」に着目した支援を心がけて活動しています。

もの忘れと認知症のちがい
 誰でも年齢とともに、忘れっぽくなったり、人の名前などを思い出せなくなったりします。こうした「もの忘れ」は脳の老化によるものです。しかし、認知症はちがいます。認知症は病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態をいいます。つまり、認知症は加齢によるもの忘れとはちがうのです。

認知症サポート医 齋藤 雅人(地域包括ケア病棟 顧問)

せん妄対策にも取り組んでいます
 せん妄とは「意識レベルの低下により、見当識障害(時間や場所がわからなくなること)、幻覚、妄想、興奮、錯乱、活動性の低下といった症状をきたす精神機能の障害」といわれています。なんだか難しいですね。わかりやすく言うと、「寝ぼけて訳がわからなくなっている」状態に似ているかもしれません。とくに高齢者は、入院すると環境の変化や手術のストレスなどで、せん妄を起こしやすくなります。その症状から認知症と間違われることがありますが、せん妄は一時的な症状で多くの方は短期間で回復します。せん妄を起こすと本人にとって苦痛であるばかりでなく、もともとの病気の治療や看護に困難をもたらします。その結果、回復が遅れたり別の問題(例えば転倒・骨折)を起こしたりするので、予防することが大切です。
 そこで当院では2021年4月より、入院してきた患者さん全員にせん妄が起きやすくなる要因の有無をあらかじめチェックして、せん妄予防対策をたてるシステムを立ち上げました。たとえば、ある特定の薬剤が原因でせん妄を起こすことがあります。この種の薬剤をできるだけ処方しない、あるいはより安全な薬剤に変更するなどの予防策をチーム主導で取り組んでいます。

管理栄養士 塚田 紗也

「口から食べる」を支える
 認知症の方は、症状の進行に伴い、食事を食べる対象として認知できないことが起こります。そのような方には、食事への工夫が必要となります。例えば、食べ始めるための声かけや、箸を持たせて介助することで自己摂取ができるよう支援をします。また、甘味の強い食品や味の濃い食品を好んで食べる偏食や食欲低下がみられることもあります。その場合は、食嗜好を確認しながら栄養補助食品の提供、プロテイン粉末やごはんにかける高エネルギーのソースを追加し、少量で栄養量が確保できるようにします。食事ペースが速い、一口量が多い場合は、窒息や誤嚥(食べ物が気管に入る)のリスクが高まるため、当院では少量ずつ盛り付けが可能な9マスの弁当箱を準備しています。料理を小分けにすることで、食事ペースや一口量の調整がしやすくなり、安全に食事が摂取できます。
 このように一人ひとりに合わせた食事や介助方法を工夫することで「口から食べる」サポートをしています。

9マスの弁当箱に料理を小分けにしています

社会福祉士 島田 浩

認知症があっても安心して暮らせる地域づくりのために
 「認知症状がひどくなり自宅で介護するのが不安です。退院後、どうしたらよいでしょうか?」「徘徊があり在宅介護は限界です。どこか入所できる施設はありませんか?」など、入院を機に認知機能が低下し、退院後の生活に不安を感じられる患者さんやご家族からの相談を多く受けます。私たち社会福祉士(医療ソーシャルワーカー)は、認知症であったとしても本人の意向や思いを最大限尊重し、ご家族への支援を行いながら生活の再構築をしていくお手伝いをしています。その方法として介護保険申請手続き、地域包括支援センターやケアマネジャーとの連絡調整、さらには転院や施設入所の相談を行っています。近年、認知症への関心や理解が深まってきましたが、一方で認知症による周辺症状(徘徊や介護拒否等)を理由として施設の受け入れが難しいケースにも遭遇します。社会福祉士として院内チーム活動にとどまらず、地域で行われている認知症に対する施策との協業も視野に入れた活動を行いたいと考えています。認知症があっても安心して暮らせる地域づくりに少しでも寄与できればと思います。

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