「腎臓のなみだ」を放置しないで

2023年06月13日(火曜日)

沈黙の臓器といわれる「腎臓」
尿検査でわかる「腎臓のなみだ」を放置していませんか?
腎臓内科医が腎臓とその病気について解説します

腎臓内科医長・透析センター長 上野 里紗


腎臓は症状が全く出ない臓器です
腎臓病の早期発見には尿検査を必ず受けましょう

みなさん、1年に1回は健診を受けていますか?
その時に毎回尿検査がありますよね。なぜ尿検査が必要なのでしょうか?
尿検査で私たちは何を見ているのでしょうか?
答えは、腎臓に病気がないかどうかを見ています。

腎臓は、沈黙の臓器といわれるほど、症状が出ない臓器です。知らないうちに病気が進行し、症状が出た時には透析という経過をたどります。そのなかで唯一、尿に蛋白や血が出ることが早期発見のサインです。普段尿に出ないはずの蛋白や血が出ている=腎臓になにか病気があるかもしれない、私たちはそのサインを『腎臓のなみだ』と考え、すぐに検査を行い、病気を見つけていきます。早期発見すれば腎臓を治すこともできます。しかし症状がないからと放っておけば手遅れになり、治せなくなり、慢性腎不全や透析になってしまう可能性があります。
「尿潜血といわれているけど、別に痛くもないから放っているよ」
「尿蛋白が出ているけど、特に何も症状はないし経過を見ているよ」
もしそういう方がいらっしゃれば、すぐにかかりつけ医に相談してください。


血液検査のクレアチニン(Cr)をチェックしましょう
少しでも高ければかかりつけ医に相談
腎臓内科を受診してください

では、もう腎臓が悪いといわれている方はどうでしょうか。腎臓の値は血液検査の『クレアチニン(Cr)』という項目を見ます。今一度ご自身の採血結果を見てください。『クレアチニン(Cr)』は高くないですか?
クレアチニンは、体が作り出したゴミです。腎臓は体にこのゴミが溜まらないように、常にきれいに浄化してくれています。しかし腎機能が悪くなると浄化しきれず、少しずつ体にゴミが溜まっていき、クレアチニンが高くなってきます。つまり、クレアチニンが高いほど腎臓が悪いということになります。

クレアチニンの正常値は性別や年齢、体重によって異なりますが、
● 男性 約0.6-1.0mg/dL
● 女性 約0.5-0.8mg/dL
です。
そしてこのクレアチニンの数値が
6.0-8.0mg/dL
まで上がると透析になることが多いです。

血液検査でクレアチニンが高く出ている方は、症状がないからと放っていませんか?
もしくは正常値より少し高いくらいだから大丈夫と放っていませんか?
前述しましたが、腎臓は症状が出ない臓器です。症状がないからと放っておくと、気づけば透析直前まで進んでしまいます。またクレアチニンが少し高いくらいだから大丈夫と思っていることも間違いです。
腎臓は働き者の臓器ですので、大部分が傷んでも残された腎臓が肩代わりして働いてくれるので、クレアチニンはそう簡単には上がりません。裏を返せば、クレアチニンが上がってきている時点で残された腎臓が肩代わりできないくらい悪くなってきているということなのです(図1)。
ですので、クレアチニンが高い、腎臓が悪いと言われた時点でかかりつけ医に相談していただきたいと思っています。



一度悪くなった腎臓を元に戻すことはできません
しかし腎臓が悪くなるスピードを止めることや緩めることはできます
腎不全だからとあきらめないで

では、私たち腎臓内科は悪くなった腎臓をどのように治療しているのでしょうか?
私たちはまずはなぜ腎臓が悪くなったのか、そしてこれからどんどん悪くなる原因があるのかを精査していきます。また、同時に患者さんにも正しい知識を持っていただき、正しい療養生活をしていただくことがとても重要です。さらに腎臓病の患者さんは、心血管合併症の発症が正常の方より3倍高いことがわかっていて、心血管合併症を予防していかなければなりません。そこで私たちの病院では、1週間の慢性腎不全検査教育入院を行っています。「減塩!減塩!」といわれるが実際にどのような食事を食べればいいのか、運動はどれくらいしてよいのか、など具体的な療養生活を学びます(図2)。

実際にこの教育入院で腎機能の進行が抑えられるというデータがあり、私たちもその効果を実感しています(図3)。医師・看護師のみならず、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士など多職種のチーム医療でサポートしていきます。



日本の透析は世界一!
決して辛いことだけではありません
元気に生き生き生活されている方はたくさんいます

みなさん、透析と聞くとどのようなイメージを抱かれるでしょうか?
しんどそう、辛そう、絶対したくない、そんなイメージを持っている方が多いと思います。
でも、日本の透析は世界一といわれています。透析になっても10年以上生きている方はたくさんいて、30年以上透析されている方もいます。
何より、慢性腎不全でしんどかった体が透析によって楽になり、仕事を継続されたり、趣味のスポーツを楽しんだりしている方もたくさんいます。透析は決して辛いことだけではなく、不幸なことでもありません。家でできる透析もありますし、腎移植という選択肢もあります。
正しい知識を持つことがとても重要です。透析について知りたいという方はいつでも相談してください。

その他、難治性高血圧や電解質異常などの診療も行っていますので、なにかご心配なことやご不明なことがあれば、いつでもご相談ください。
みなさんが、よりよく生きられるように寄り添った診療を行っていきたいと思っています。


上野 里紗 (うえの りさ)

腎臓内科医長・透析センター長
2007年国立滋賀医科大学卒業、京都府立医科大学附属病院研修医を経て2009年京都府立医科大学循環器・腎臓内科医局入局。近江八幡市立総合医療センター・京都第一赤十字病院で勤務し、2019年京都済生会病院で腎臓内科・透析センターを立ち上げる。
日本内科学会認定総合内科専門医、日本腎臓学会認定腎臓専門医・指導医、日本透析医学会認定透析専門医・指導医、日本高血圧学会認定高血圧専門医、日本腹膜透析医学会認定医 など 掲載の「京なでしこ」を見る

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