避妊法について― リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖の健康と権利)の観点より―

2023年06月13日(火曜日)

はじめに

理想的な避妊法の条件は以下のようなものです。
 1.避妊効果が確実である
 2.使い方が簡単であり、長期にわたって使用できる
 3.安価であること
 4.副作用がない
 5.女性の意思だけで行うことができる、パートナーにお願いする必用はない
 6.セックスのムードを壊さず、性感を損なわない

ただ、残念ながら上のすべての条件をみたす避妊法は現在のところありません。そこで、年齢や出産回数、既往歴、片頭痛や高血圧の有無などその人のライフステージに応じた避妊法を選ぶ必要性があります。

1994年に国連が開催した国際人口開発会議で 女性が健康的で満足のいく性生活を送ることができる権利、避妊や中絶、産む子供の数や産む時期を自分で決めることができる権利を人権として尊重し、各国はこの権利を守るために必要な手段や情報を国民に提供しなければいけないと定められました。

これがセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖の健康と権利)です。

今この権利が守られるよう日本の国が努力しているかというと、それはなかなか達成できていないですね。例えば避妊の方法はコンドームを使用する割合が70~80%、コンドームは男性任せの避妊法です。コンドームは性感染症(セックスで感染する病気)の予防に役に立ちますが、破れたり、使用方法が適切でないと避妊の失敗につながります。わが国では安全で確実な避妊法である経口避妊薬(ピル)は医者の処方がないと手に入りません。また人工妊娠中絶も法律でパートナーの同意がないとうけることができず、自分で勝手に決められません(ただ、レイプで妊娠した場合やDV、離別等でパートナーの同意をとることが難しい場合は本人の同意のみでよいということにはなっています)




1.みんなが使用している避妊法、避妊法の国際比較

では、現在日本の女性はどんな避妊法を選択しているかを見てみましょう。
日本家族計画協会が2060代の男女を対象に性行為について調べたもので、その中で「現在の主な避妊方法」についてまとめた結果(ジャパン・セックスサーベイ2020)を次に転載します。圧倒的に多いのは「コンドーム」で、年代別で見ても全年代で1位でした。
避妊はしていないと回答した人は全体の37.7%でしたが、これは妊娠を希望する年齢での調査のため妥当な結果と考えられます。

▼「現在の主な避妊方法」(ジャパン・セックスサーベイ2020)

   全体(%)  20歳代  30歳代  40歳代  50歳代  60歳代
 コンドーム 50.4 73.1 66.0 63.0 42.8 20.8
 腟外射精法 16.7 24.9 22.5 20.2 15.3 5.8
 ピル(OC 2.7 10.9 10.9 5.0 0.8 1.0
 基礎体温を測定 1.7 4.3 2.3 1.9 0.7 0.6
 オギノ式避妊法 1.3 1.9 1.5 1.4 0.8 1.0
 腟内を洗う 1.0 3.0 0.5 1.2 0.6 0.4
 不妊手術 0.5 - 0.3 0.3 0.3 1.0
 子宮内避妊具(IUD/IUS 0.3 - 0.4 0.4 0.1 0.6
 殺精子剤(錠剤、フィルム) 0.1 0.5 - 0.3 - -
 その他 1.9 - 0.3 0.7 3.8 3.7

次に世界各国の避妊法事情についてみていきます。
次の表は国連のContraceptive Use by Method 2019のデータより作成しています。15歳~49歳まで(生殖可能年齢)の女性の使用している避妊法を国別に表示しており、数字は%です。サーベイの年月日が古いものもあり、現在の状況を反映していないかもしれませんが、傾向は見て取れると思われます。
これによると日本では男性用コンドームが飛びぬけて使用頻度が多く、避妊効果が高いピルやIUDは非常に少ないですが、欧米ではピルが簡単に手に入る(医者の処方が不要)ためピルを使用する人が多い傾向です。

▼「各国で使われている避妊法」(国際連合 Contraceptive Use by Method 2019)

  日本 北朝鮮(?)  Repablic Korea  China  オーストラリア   米国  カナダ  イギリス フランス   ドイツ 
 女性不妊手術 1 2.6 6.8 20.3 6.4 22.3 5.8 8.6 4.6 7.6
 男性不妊手術 0.2 0 17.4 1.6 13.5 7 5.3 14.5 0.8 3.6
 ピル 6.2 2.8 6 34.5 38.5 22.3 39.5 36.4 52.1 54.6
 避妊注射 0 0.3 3.8 0 1.6 3.7 2.6 4.3 0.3 0.9
 避妊インプラント 0 0 0.5 0.3 7.5 4.4 0 2.2 2.7 0.3
 IUD 0.8 78.2 16.1 37.7 8 14.2 2.2 10.6 22.2 11.7
 男性用コンドーム 75.8 8.8 37.7 33.4 21.2 15.1 36.2 11.3 12.6 17.2
 リズム法 10.1 5.8 7.1 1.6 0.7 2.3 1.2 2.2 2.7 1.2
 膣外射精 4.5 1.2 2.7 0.8 1.6 7 2.8 5.4 1.1 0.3
 その他 9.6 0.3 1.4 1.3 1.2 2.6 4.3 4.6 1.1 2.6
 サーベイ年  2015 2014 2009 2017 2015 2015 2006 2008 2010 2011

2.避妊法の種類

避妊法にはずっと昔からある伝統的な避妊法、短期間(1回の性交のみ~1カ月間有効)有効な方法、長期間(25年)有効な避妊法があります。

  避妊法 避妊失敗率 備考
 伝統的  膣外射精法  22%  効果は不確実
 リズム法  5~24%  基礎体温法等
 短期間有効  ピル  0.3%  飲み忘れで妊娠する
 男性用コンドーム  2~18%  性感染症が予防できる
 女性用コンドーム**    性感染症が予防できる
 殺精子剤**  25%  1回のみ
 避妊注射*    3カ月間有効
 避妊パッチ*    1週間に1回貼り替え
 緊急避妊ピル  1~2%  性交後72時間以内に服用
 長期間有効  女性不妊手術(卵管結紮)  0.5%  効果は半永久的
 男性不妊手術(パイプカット)  0.1~0.15%  効果は半永久的
 IUD/IUS(子宮内避妊具)  0.2~0.8%  5年間有効
 避妊インプラント*    3年間有効

* 日本では利用できない  ** 製造中止は販売中止のため現在手に入らない

わが国では1999年に低用量ピルが承認されて使用できるようになり、これ以降新しい避妊法が登場するとそれまで使われていた避妊法が消えるという世界でも稀な国です。売り上げが伸びなくなった殺精子剤、ユウセイリング、女性用コンドームは市場から消えましたが、安全で有効な避妊法であれば選択肢がたくさんある方がよいに決まっています。しかし、わが国にはそれらを保護する行政施策はほとんどありません。(女性医学ガイドブック 思春期・性成熟期編 2016年度版より抜粋)


3.各種避妊法の特徴

(a)ピル(OC/経口避妊薬)

エストロゲン(エチニルエストラジオール、EE)とプロゲスチン(黄体ホルモン製剤)が入っている錠剤です。服用することにより排卵しなくなるため妊娠しません。21錠タイプと28錠タイプがあり、21錠タイプは3週間服用して1週間休薬し、休薬期間に消退出血(生理のようなもの)が起こります。28錠タイプのものは最後の4週間目が偽薬といってホルモンが入っていない錠剤で、この時に消退出血がおこります。

忘れずにきちんと服用すれば避妊効果はほぼ100%に近いですが、飲み忘れによって排卵が起こることがあります。

男性に頼らず、女性主体で避妊ができ、避妊効果も確実で性感も損ねない優秀な避妊法で、生理痛の軽減、生理の出血量を減らす、卵巣癌、子宮体癌の予防効果もありますが、性感染症の予防効果はありません。

副作用として服用開始後の1~2か月くらいは少量の不正出血やむかつき等の消化器症状が見られることがありますが、服用を続けるとなくなっていきます。

重篤な副作用として静脈血栓塞栓症(静脈の中で血液が固まって血管が詰まる)、肺塞栓、脳卒中、心筋梗塞がごくまれに起こります。これは低用量ピルの中に含まれるエストロゲン(エチニルエストラジオール)に血液を固まりやすく(凝固しやすく)する働きがあるからです。
妊娠中は胎盤から大量のエストロゲンとプロゲステロンが分泌され、来るべき分娩のときの出血に備える(出血しても血が固まりやすくなって止血できるように)わけですが、このため静脈血栓症や肺塞栓のリスクがあがります。低用量ピルの静脈血栓症に関連する肺塞栓や脳卒中、心筋梗塞のリスクは妊娠中や分娩後のリスクより低いことが知られています。
静脈血栓症のリスクは10代ではほとんど問題にならないですが、年齢が上がる、喫煙の習慣、高血圧などの合併症でリスクが上昇します。このため、35歳以上で煙草を吸っている方、コントロールできていない高血圧、前兆のある片頭痛の方には低用量ピルを処方することができません。

低用量ピルは初経後から服用できます。10代の若い人にとっては理想的な避妊方法ですが、飲み忘れると妊娠の可能性がでてきます。

低用量ピルと同じ成分で月経困難症(生理痛のきつい状態)や過多月経(生理の出血が多くて貧血になる)に用いられている低用量エストロゲン・プロゲスチン(LEP)は副作用がでていなければ閉経もしくは50歳ぐらいまで服用できます。
そもそも50歳ごろになると卵巣にはまともな卵子はなくなってしまい、排卵がなくなり閉経となるわけですが、わずかに残っている異常の卵子でもしも妊娠が成立すると流産や胞状奇胎の原因となります。

いつになったら避妊が不要になるかは、生理が何か月もこなくなり、ホットフラッシュや発汗などの更年期障害がでてくるともはや妊娠は成立しません。


(b)コンドーム

ラテックスゴム製、またはポリウレタン製の勃起したペニスに装着し精液が外に漏れないようする避妊具です。薬局やスーパー、コンビニで売っています。
入手しやすく、使い方は簡単で値段も安価で、エイズをはじめとする性感染症の予防に唯一役に立ちますが、男性主体の避妊具のため男性の協力が必要となります。
コンドームは破損や抜け落ちてしまう、精液が漏れてしまうなどで避妊に失敗することがあり、また、最初の挿入の前に装着しないと射精前から精液がごく少量漏れる人もいるため注意が必要です。避妊失敗率は218%と言われており、破損や脱落、精液の漏れがあった場合は緊急避妊薬が必要となってきます。
また、ゴムや潤滑剤に対してアレルギーを示す人がまれにいます。後述する殺精子剤を併用して避妊成功率を上げることができますが、現在のところわが国では殺精子剤は購入することができません。


(c)IUD/IUS(子宮内避妊器具/子宮内避妊システム、昔は避妊リングと言われていました)

子宮の中に挿入することにより受精卵が着床するのを阻害する避妊法です。
以前はリング状のもの(右図)を使用していたため避妊リングと呼ばれていましたが、リング状のものは挿入するときや抜くときに頸管拡張(子宮の入り口を広げる処置)が必要になる場合や、痛みを伴うことがあるため右図のようなリング状のIUDは現在では使われなくなっています。

IUDやIUSは子宮の入り口から器具を挿入するため分娩を経験していないと子宮の入り口が硬くてひろがりにくく、挿入が困難であったり、挿入後も腹痛や出血がつづいたりします。

現在わが国で使用可能なIUDはつぎの3種類で、いずれも産婦人科の医師による挿入が必要です。
1) FD-1(魚の骨のような形をしている)
2) ノバT(銅付加子宮内避妊具、銅イオンで着床を阻害する)
3) ミレーナ (黄体ホルモン放出型子宮内避妊システム、子宮内にレボノルゲストレルという黄体ホルモンを放出、子宮内膜を薄くして着床しないようにする)


1) FD-1

プラスチック製で子宮の中に入れて受精卵が着床するのを阻害することにより避妊効果が期待できます。挿入して1年までの妊娠率は1%未満です。一度入れると2~5年で交換する必用性があります。5年を超えて長期間挿入したままにしておくと内腔で癒着して抜くのが困難になることがあり、稀に感染症をひきおこすこともあります。

挿入後に月経の出血量が多くなったり、出血する期間が長引いたりすることがあり、生理痛がひどくなったり挿入したFD-1が勝手に脱落することもあります。
FD-1を入れてから出血がとまらないとか、痛みがひどい時はFD-1が体に合っていないということなので、ほかのIUDをためしてみるか、ほかの避妊法に切り替える方がよいと思われます。 
入れた後は定期的にFD-1の位置をチェックする必要性があります。


2) ノバT

銅付加IUDで、本体から溶け出す銅イオンがIUDの異物反応を増強し、精子や卵子の機能並びに生存能力を減少させることにより,受精しないようにすることと子宮内に異物がはいっていることにより着床を阻害することによって避妊効果が現れます。ノバTの妊娠率は0.2%0.8%といわれており、高い避妊効果があります。

通常の避妊法として使用する以外に無防備な性交で妊娠した場合の緊急避妊にも用いられます。この場合、無防備な性交をおこなって120時間以内に銅付加IUDを子宮内に挿入することにより妊娠を防ぐことができます。挿入期間は5年で5年以内に抜くか、入れ替えが必要となります。

ただ、後述のミレーナが発売されてからは需要がへり、本年3月に製造中止となっています。在庫がなくなり次第販売中止になると思われます。


3) ミレーナ

黄体ホルモン放出型子宮内避妊システム(LNG-IUS)です。子宮の中に持続的にレボノルゲストレル(合成黄体ホルモン)を放出して子宮内膜を委縮させ、着床できなくなるため避妊効果があらわれます。

レボノルゲストレルの効果で子宮内膜が薄くなるため生理の量は少なくなり、生理痛も軽くなるため、月経困難症や過多月経の治療に用いられ、保険適応があります。

挿入後は5年以内に抜くか入れ替えをする必要があります


(d)緊急避妊ピル(Emergency Contraception: EC)

緊急避妊法は避妊しないで性交を行った場合やピル(OC) の飲み忘れ、レイプや性的暴行後、腟外射精の失敗、コンドームの破損や脱落などの場合に、性交後72時間以内に緊急避妊ピル(ノルレボ錠1.5㎎を1錠またはノルレボ錠0.75mg2錠)を1回だけ服用することによって妊娠しないようにする方法です。

ノルレボ錠は性交後の早い時期に服用すると避妊効果が高くなり、24時間以内であれば妊娠率は0.4%49~72時間の間に服用すれば妊娠率は2.7%となっています。ノルレボ錠で妊娠が回避されたら、服用から約3週間後に生理様の出血がおこります。

ただ、ノルレボ錠は排卵を遅らせる作用もあるため、服用したあとに無防備な性交を行うと遅れた排卵で妊娠が成立する場合があり、次の月経までに性交の機会がある場合はOC14日間服用してきちんと避妊する必要性があります。副作用は頭痛、眠気、吐き気、不正出血などで頻度は高くはありません。

ノルレボ錠以外に銅付加IUDを緊急避妊法として使用する方法があります。避妊しないで行った性交後120時間以内に銅付加IUD(ノバT)を子宮内に挿入する方法ですが、IUDの値段が高価(34万円)なためコストパーフォーマンスは悪く、また出産したことがない人にとっては子宮の入り口(頸管)が広がりにくいため挿入が困難なこともあります。なお、銅付加IUDのノバTは令和6年に発売中止となる予定です。


(e)不妊手術(男性不妊手術/女性不妊手術)

不妊手術はすでに子供が何人かいて、今後ずっと妊娠を希望しない場合に、永久に妊娠できないようにする手術法です。

女性不妊手術は卵管結紮術で、術式には、単に卵管を結紮する方法や 卵管の一部を切除する方法があり、結紮だけの場合また開通する可能性がわずかながらあります。卵管はお腹の中にある臓器のため、手術は腰椎麻酔、もしくは全身麻酔で開腹手術もしくは腹腔鏡手術となります。分娩後であれば子宮のてっぺんが臍のレベルにあるため2㎝ほどの創(傷)で易に卵管にアクセスすることができます。もしまた子供がほしいと思ったら、体外受精で妊娠するか、お腹を開けて結紮や一部切除した卵管を吻合する手術が必要になります。

これに対し、男性不妊手術は精管結紮術(いわゆるパイプカット)で開腹術は必要なく、局所麻酔で行い、日帰りでできます。精管結紮も永久不妊法ですが、もし子供が欲しいと思った場合には開通させる手術があります。


(f)腟外射精法

射精直前にペニスを腟から抜く方法です。男性の協力がないとできませんし、抜くときのタイミングが遅ければ腟内に射精してしまい、避妊の失敗につながります。また射精前にも精管内にのこっている精子がもれて妊娠につながることもあり、不確実な避妊法です。


(g)基礎体温法

基礎体温法はいわゆるリズム法の一種で妊娠しやすい日をさけて性交する方法です。

基礎体温とは体が何も活動していない時の体温です。体温は食事や運動、思考でも上昇するので、朝めざめてすぐの体温が基礎体温になります。朝目覚めてすぐに口の中で体温を測定し、毎日記録すると、排卵までは36.5度未満で低い(低温相)ですが、排卵後は卵巣から分泌される黄体ホルモンの作用で体温が上がります(高温相)。 妊娠すると高温相が3カ月の終わりぐらいまで持続します。妊娠しない時は排卵後に高くなった体温は月経が開始すると下がって低温相となります。 これは月経開始前に黄体ホルモンが消滅するためです。人によりますが排卵前と後では0.30.5度の体温の差があります。

目が覚めてからトイレにいったり、食事をするなどで体温が上昇するため、目が覚めてすぐに測定する必要性があります。体温計は枕元に置いておきます。起きる時間がおそくなると体温は少し上昇し、また寝不足や寝る前の飲酒でも基礎体温は上昇します。

排卵後36時間以内が受精可能時期ですが、基礎体温で高温相になってから3日目以降では受精する卵子はいなくなっているため、避妊法を用いなくても妊娠しません。月経から排卵までの低温相ではいつ排卵するかの予測ができないのと、精子は女性の体の中で5日~7日間正存しているため月経直後であっても腟内に射精された精子は排卵まで生き残っている可能性があります。

基礎体温法は毎月きちんと排卵がある人には有効な避妊法ですが、月経不順がある場合は排卵がなかなかおこらない場合もあり、性行為の刺激で排卵するというケースもあるため、どちらかというと不確実な避妊法です。また、毎日決まった時間に起きて体温を測定するのが困難な場合は排卵時期の判断が難しい場合があります。


(h)女性用コンドーム

女性の腟の中に挿入して使用する避妊用のコンドームです。やわらかいポリエチレンでできていて、外陰部と腟が覆われるため精子の侵入を防ぐ他、性感染症も防ぎます。女性主体でできる避妊法です。男性用のコンドームとの併用はできません。一緒に使うと摩擦で破れる可能性があります。性交の数時間前から装着可能で、装着したまま排尿も可能です。男性用のコンドームと比べると値段が高いです。

挿入方法:人差し指と親指で底にあるリングを持って細長くします。タンポンを入れる要領でリングを腟の中に挿入し、指で押し上げます。リングが腟の中にはいったらコンドームの中に指を入れてリングが子宮にあたるまで押し上げます。子宮の入口に到達すると自然にリングが開いて挿入している感覚がなくなります。外側のリングが腟の入口から2.5㎝ほど出ていることを確認してください。それ以上でていれば内側のリングをもう一度押し上げてください。

性交の際にはペニスがきちんとコンドーム内に挿入されるように誘導してください。男性が射精しないかぎりコンドームを使い続けることができます。射精が終わったら外側のリングを持ってくるくるねじって中の精液がこぼれないようにしてコンドームを抜いてください。使い終わったコンドームは再利用はできません。トイレに流さないようにしてください。


(i)殺精子剤

腟の中に入れて使う薬剤で精子を動かなくしてしまいます。性交の直前に腟の中に挿入して効果時間は1時間~2時間と言われています。副作用等は特にありませんが避妊確率は75%といわれています。コンドームと併用することにより避妊効果はあがります。

日本では以前マイルーラという避妊フィルムが発売されていましたが、現在は発売されていませんので日本では手に入らなくなっています。


(j)日本では手に入らない避妊方法


避妊注射(デポ・プロベラ)

メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(medroxyprogesterone acetate, MPA)は更年期障害のホルモン療法や卵巣機能障害のホルモン療法にも用いられる黄体ホルモン製剤で、筋肉内や皮下注射を行って数カ月間でゆっくり放出されるように加工したデポー剤が妊娠を予防するために使われています。避妊薬として100ヵ国以上で使用が承認されていますが、日本では使用できません。避妊効果は94%、1回注射すると3カ月間は避妊効果が持続します。副作用として不正出血 嘔気 性欲減退 体重増加等がありますが、黄体ホルモンで子宮内膜は薄くなるため月経は軽くなります。


避妊インプラント(インプラノン)

長さ4㎝のマッチ棒と同じような形のインプラントを腕(上腕三頭筋の上)に埋め込み、インプラントからエトノゲストレル(etonogestrel)という黄体ホルモン製剤が毎日50㎍ずつ放出され妊娠を防ぎます。一回挿入すると3年間は99%の確率で妊娠を予防します。挿入時には局所麻酔を行い、アプリケーターを用いて挿入するため皮膚切開は不要ですが、抜くときは皮膚切開が必要となります。インプラントを抜いた後は妊娠可能です。副作用は黄体ホルモン製剤の副作用(不正出血 嘔気 性欲減退 体重増加等)があり、副効用として月経が軽くなります。


避妊パッチ

黄体ホルモン製剤(ノルエルゲストロミン、norelgestromin)とエチニルエストラジオール(EE2)を含み、貼付すると7日間にわたり一定量のホルモンを放出する経皮パッチ剤です。ピル(OC)を皮膚から吸収させるようにしたもので、毎日服用する必要はなく、1週間に1回張り替えて、4週目は休薬して消退出血(生理のようなもの)をおこします。貼り忘れをしない限りパッチはピルに比べてホルモンレベルが一定に保たれます。ただ、貼付した場所がかぶれてかゆくなる場合があり、その他の副作用はOCと同じです。


腟リング

柔らかいリングでエチニルエストラジオールとエトノゲストレルを放出し、腟の粘膜からこれらのホルモンが吸収されることにより避妊効果がでます。毎月交換する必用がある1カ月用のリングと1年間使用できる1年用リングがあります。腟の中に自分で入れて3週間挿入したままにし、その後1週間リングを抜いた状態にして消退出血(生理のようなもの)をおこさせます。


4.避妊法の選び方


1)10代~20代前半の若い世代

性的に活発で、しかも衝動的な性行動を起こす可能性がありますので、ピルのような安全で効果の高い避妊法が勧められます。若い世代では血栓症等の副作用を殆ど心配することなく服用可能です。
人工妊娠中絶後もすぐにピルを開始しても問題ありません。
妊娠・出産経験がある場合はIUD/IUS(子宮内避妊具・避妊システム)も選択肢にはいります。生理痛がひどい場合や生理の出血が多い場合(過多月経)は保険でIUS(ミレーナ)を挿入できます。


2)産後の避妊

赤ちゃんに母乳を上げている場合、ピルを内服することによって母乳が出にくくなり、またピルの成分が母乳に移行することもあるので、産後6カ月間はピルを使用しない方がよいとされています。母乳をあげてない場合でも出産後4カ月以内は血液が固まりやすくなっているため、ピルの服用で血栓症のリスクが高くなる可能性があります。
IUD/IUS(子宮内避妊器具)は避妊効果が高く母乳にも影響しないため出産後の避妊法として優秀ですが、出産直後では子宮がまだ元の状態にもどっていないため、炎症をおこしたり、IUDが子宮を突き破ったり、またすぐに脱落することもあるので子宮が元に戻る産後6週間を待ってから挿入するのがよいです。


3)生み終えた世代の避妊

ピルは生理不順や月経困難症、月経前症候群に対して良い効果をもたらし、子宮内膜症や子宮筋腫の進行も抑えますが、年齢があがると血栓症のリスクが増加します。
35歳以上で喫煙者(115本以上)、前兆のある片頭痛、コントロールしていない高血圧症等ではピルは服用できないことになっていますので、IUD/IUSが勧められます。
副作用もなく、血栓症のリスク高くない場合は50歳ごろまでピルを服用することが可能です。

最後の分娩後に卵管結紮術を受けるのも一つの方法で、これは永久不妊のため毎日何かを服用するとか何年経ったら入れ替えるという煩わしさがありません。経腟分娩では出産後25日目に臍の下に約2㎝の切開で両方の卵管を出してきて結紮します。卵管結紮を行っても卵巣から出るホルモンには影響しません。帝王切開の場合はお腹を開いているため簡単に卵管切除が行えます。
分娩後でない時に卵管結紮術を受ける場合は腹腔鏡もしくは腟式で行うことになりますが、手術が保険の適応ではないため入院や手術の費用は自費になります。


加藤 淑子 (かとう よしこ)

産婦人科 顧問
産婦人科・周産期センター

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