「糖尿病」は 本当に生活習慣病?

2024年12月25日(水曜日)

" 甘いものを食べすぎたらおしっこに糖がでる?"
" 血糖値が高いってどういうこと? 暴飲暴食でなる病気でしょ?"
そんなイメージをアップデートする「糖尿病」のお話です。

糖尿病内科 医長 北江 彩

そもそも「糖尿病」ってどんな病気?

「糖尿病」と聞いて、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
食べ過ぎ、不摂生、贅沢病、生活習慣病、運動不足、目が見えなくなる、足が腐る? 身近な誰かを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。そもそも糖尿病というのは身体が「どのような状態」になっていることを指すのでしょうか。

「尿」という漢字が使われていますが、尿の病気ではありません。食事の糖分は、血液中にブドウ糖として吸収されます。その血液が全身の血管をめぐり、脳や筋肉など全身のさまざまな細胞に取り込まれ、エネルギーとして消費されます。このブドウ糖が細胞に取り込まれる時の通り道を開くのに必要になるのが、膵臓で作られる「インスリン」というホルモンです。インスリンの働きが何らかの理由で不十分になると、血液内のブドウ糖が細胞に吸収されにくくなってしまい、余ったブドウ糖が血液中に渋滞します。血液中のブドウ糖が過剰になった状態=血糖値が高い状態が慢性的に続くのが糖尿病です。

結果的に、血液を原料に作られる尿にもブドウ糖が排出されるので、昔の人は尿に糖が出て甘くなる病気として「糖尿病」と名付けたようです。でも、実際にはインスリンが効きづらい、またはインスリンの量が足りない、もしくはその両方によって血液の中のブドウ糖が過剰になってしまう病気です。

糖尿病になってしまう原因は?

ひと昔前、糖尿病は高血圧症や脂質異常症(高コレステロール血症)と並んで「生活習慣病」と呼ばれていました。食事や運動などの生活習慣が発症や治療に大きく関わってくる病気という意味ですが、この名称から「糖尿病になる人は生活習慣が悪い人」「不摂生による自己責任」といった偏見ともいえるマイナスイメージに繋がってしまいました。糖尿病をお持ちの方もそうでない方も、少しご自身と周りを見回してみてください。不摂生な方や肥満の方、全員が糖尿病になるわけではありません。また、明らかに痩せていたり、規則正しく健康的な生活をされていたりするのに、糖尿病をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実は、糖尿病といってもその原因や病状はさまざまです。糖尿病は原因によって大きく3つに分けられます。3つの原因について、もう少し詳しくご紹介します。

(1)1型糖尿病

インスリンは、膵臓の中の膵ベータ細胞という細胞で作られます。本来、体の中で細菌やがん細胞などの敵を攻撃するための免疫が、間違ってこの膵ベータ細胞を攻撃してしまうことがあります。結果的にインスリンが出なくなってしまい糖尿病を発症します。これが1型糖尿病です。赤ちゃんから高齢者まで、幅広い年代の方がある日突然かかることのある疾患です。小さな子供や若いスポーツ選手などがインスリンを打っている様子をテレビなどでご覧になったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。生きていくのに必須のホルモンであるインスリンが自分の膵臓で作られなくなってしまうので、治療は必ずインスリンの注射が必要になります。近年、血糖測定器、インスリンポンプなど機械の進化で治療が著しく発展しました。

(2)2型糖尿病

かつて生活習慣病と呼ばれていた、みなさんにとって最も身近な、患者数の多い糖尿病がこの2型糖尿病です。もちろん運動や食事などの生活習慣も大きく関係しますが、他に「遺伝(体質)」と「加齢(老化)」が大きな原因になり、これらの要因が複雑に関係しあって発症します。ご家族のなかに糖尿病の方が多かったり、若いころには暴飲暴食しても平気だった方が年とともに糖尿病を発症したりするのも、遺伝や年齢が関係するからです。

(3)その他、二次性糖尿病

1型でも2型でもなく、他の病気や薬などが原因になって糖尿病になる場合があります。膵がんや膵炎などの膵臓の病気、他の病気の治療のためにステロイドなどの薬を使った場合に血糖値が上がってしまうホルモンの病気や、インスリンがうまく作れない遺伝子疾患など珍しい病気もあります。糖尿病が最初に見つかった時や、急に悪化した場合には、他の病気が原因になっている可能性も含めて調べていきます。

糖尿病の治療ってどうして必要なの?

大原則として知っておいてほしいことは、糖尿病の治療は糖尿病をなくすための治療ではありません。今までにご説明したとおり、体質的、年齢的なことも原因になっていて、一度、糖尿病と診断された方が糖尿病と完全に縁を切れる状態になることは難しいとお考えください。糖尿病の治療は糖尿病の合併症、つまり高血糖が原因となる他の病気にならないための予防目的の治療です。

血糖値が非常に高い状態が続けば、尿が増加して脱水になったり、ブドウ糖がうまく栄養として代謝できない状態になったり、命に関わる合併症を起こします。また、高血糖で免疫力が低下するため、さまざまな感染症にもかかりやすくなります。これら急な症状を起こす程ではなくても、長年高血糖状態が続くと、動脈硬化や血管障害が進み、視力障害、腎不全、脳梗塞、心筋梗塞などの病気のリスクが高まります。治療(食事療法、運動療法、薬物療法)を続けることで、これら他の病気を予防していくことが、糖尿病治療の主な目的です。今は何の症状もない方でも、将来のために通院、治療を継続してください。

糖尿病は日本、そして世界でも患者さんが年々増加している病気です。生活の変化や他の病気の治療が必要になった場合にも合わせて調整が必要になることも多いです。普段はかかりつけ医で糖尿病を治療されて安定している方でも、他のことで当院に入院された際など、我々と出会う機会があるかもしれません。糖尿病の可能性を指摘されている方は、症状がないからと放置せず、どうぞ元気なうちに他の病気にならないための治療を考えてみてください。

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北江 彩 (きたえ あや)

糖尿病内科 医長・栄養科 部長
2011 年京都府立医科大学卒業。医仁会武田病院、朝日大学病院、京都府立医科大学大学院を経て現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。

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