頭痛
2026年03月10日(火曜日)2 月22 日は「頭痛の日」
たかが頭痛、されど頭痛。
脳神経外科医が、つい我慢してしまう「頭痛」を解説します。
脳神経外科 医長 吉浦 徹

「Ancora imparo(私は今も学んでいる)」
ミケランジェロが晩年に残したとされる言葉です。脳神経外科において、命に直結する救急や手術では、一瞬の判断が患者さんの人生を左右します。正確さと冷静さが求められる一方で、もう一つ大切なのは「学び続ける姿勢」です。医療は日進月歩であり、昨日の常識が今日の最善とは限りません。だからこそ、研鑽を止めないことが患者さんの安心につながると、私は信じています。
このたび私は、日本頭痛学会の頭痛専門医試験に合格しました。脳卒中や脳腫瘍の診療と並行して、外来では長年、頭痛に悩む方々を診てきました。頭痛は命に関わらないことが多い一方で、仕事や家事、育児、学業に大きな支障をもたらし、生活の質(QOL)を下げてしまいます。「頭が痛いくらいで」と我慢を重ねるうち、気づけば月の半分以上を頭痛とともに過ごしていたという方も少なくありません。専門医の取得は、その一人ひとりにより良い選択肢を届けるための通過点だと考えています。
頭痛は大きく、 一次性頭痛 ( 片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛など)と、原因が明確な 二次性頭痛 に分かれます。
二次性頭痛の例として、くも膜下出血・脳出血・脳梗塞、頸動脈/椎骨動脈解離、脳腫瘍、髄膜炎・脳炎、脳脊髄液減少症、緑内障や副鼻腔炎、薬剤やホルモンの影響などが挙げられ、早急な評価が必要です。とくに以下のSNOOP10(危険サイン)に当てはまる場合は、迷わず受診してください。
- S =全身症状・全身疾患(発熱、がん、免疫不全)
- N =神経学的異常(麻痺・しびれ・言語障害・けいれん)
- O =突然発症(雷鳴様頭痛)
- O =高齢発症(50歳以降の新規頭痛)
- P=経過の変化・増悪
さらに、頭痛が姿勢を変えると悪化する、朝方に悪化する、体を動かしたり運動をしたりすると頭痛がする、咳をすると頭痛がする、目の奥が腫れる(乳頭浮腫)、妊娠中や出産してすぐの時期、目の激しい痛みや自律神経症状がある、頭を怪我した後の頭痛、新しく飲み始めた薬がある場合、がんや感染症にかかったことがある、なども注意点です。ひとつでも当てはまれば精査が必要です。

一方で、多くの方が悩むのは一次性頭痛、とくに片頭痛です。ズキズキと脈打つ痛み、光・音・においへの過敏、体動で悪化し、吐き気を伴うことが特徴で、前ぶれとして視界がチカチカする閃輝暗点が出る場合もあります。片頭痛は体質に加えて、睡眠不足や空腹、脱水、天候の急変、強い光や音、ストレスといった環境要因が重なって起こります。基本的な対策は、規則正しい睡眠・食事・水分、適度な運動などです。そこに急性期治療薬(痛いときに使う薬)と予防治療薬(頭痛発作を起こりにくくする薬)を、年齢や持病、ライフスタイルに合わせて組み合わせます。
治療の選択肢はこの十数年で大きく進歩しました。従来のトリプタンに加え、ラスミジタンという新しい急性期治療薬が登場し、心血管への影響を抑えつつ、痛みの神経経路に作用します。
予防では、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)関連抗体薬が使用できるようになり、発作回数の減少や QOL の改善に寄与しています。さらに、経口の CGRP 受容体拮抗薬(いわゆる「ゲパント」)という飲み薬の選択肢も加わりつつあります(適応や保険適用の詳細は診察でご説明します)。薬だけでなく、ニューロモデュレーションと呼ばれる神経刺激療法(経皮的三叉神経刺激など)も、症状や背景に応じた補助的選択肢となり得ます。
これらは生活設計との両立を考えた「続けられる治療計画」をつくるうえで有効です。
ただし、留意したいのは、自己判断で市販薬を頻繁に使い続けると、薬の使い過ぎによる頭痛(MOH:Medication OveruseHeadache)に陥り、かえって頭痛が起こりやすく、長引きやすくなることです。「効き目が落ちた気がする」と回数が増えるほど悪循環に入りやすくなります。初診では、頭痛の起こり方・頻度・誘因・随伴症状・服薬状況・生活リズムを丁寧に伺い、必要に応じて画像診断や血液検査を行い、一次性か二次性かを見極めます。
そのうえで、急性期治療薬は「早め・適量・適切なタイミング」を守り、必要に応じて予防薬へ段階的に移行します。頭痛ダイアリーで経過を可視化し、「頭痛回数の減少」など具体的な目標を共有して、一緒に調整していきます。
脳神経外科としての強みは、見逃してはならない二次性頭痛を迅速に鑑別できることです。救急対応が必要か、外来で精査を進めるかを、画像診断や神経診察を組み合わせて判断します。
頭痛診療は単独では完結しません。内科、婦人科などの診療科、リハビリテーション科、看護部、薬剤部と連携し、チームで診療にあたります。必要に応じて職場などへの情報提供も行います。
「困ったときの拠り所」として窓口になることが、地域の病院としての役割だと考えています。

「頭痛くらいで受診してよいのだろうか」と迷う必要はありません。「いつもの頭痛と違う」「市販薬が手放せない」「月に何度も寝込む」そんなサインがあれば、遠慮なくご相談ください。適切に診断し、無理のない治療を重ねることで、発作の頻度やつらさは着実に減らしていけます。
「Ancora imparo」の精神は、知識や手技を増やすだけでなく、「目の前の困りごとを具体的に解決する力」を磨き続けるという意味でもあります。痛みの背景には、家族や仕事、学業、人生の節目など、その方だけの物語があります。私はそれを伺い、現実的で続けられる計画に落とし込み、結果につなげることを重視しています。最新の知見を取り入れ、患者さんの経験からも学び、明日の外来をより良くする。この積み重ねが地域医療の質を高めると考えています。
脳神経外科では、一般外来の中で頭痛相談も承っています。受診の可否に迷う場合は、まずはお電話でお問い合わせください。初診の方は、紹介状やお薬手帳があるとスムーズです。一人ひとりに合った頭痛診療を心がけてまいります。
脳神経外科 医長
2011年防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校およびその関連病院で勤務。また、自衛隊医官として海賊対処派遣行動やCOVID-19対応、災害派遣に従事した。2025年より現職。
日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医、日本脳卒中学会認定脳卒中専門医、日本脳神経血管内治療学会認定脳神経血管内治療専門医、日本脳神経外傷学会認定脳神経外傷専門医、日本神経内視鏡学会認定神経内視鏡技術認定医、日本頭痛学会認定頭痛専門医、日本医師会認定産業医
