尿漏れ(尿失禁)
2022年08月05日(金曜日)立て続けに咳が出る、大きなくしゃみをしたときにピッっとおしっこが漏れてしまうことがありませんか? ひどくなると笑っても、縄跳びのような上下運動や、立ち上がった時にも漏れてしまい、いつも尿漏れパットや尿漏れ用の下着をつけていないと心配という人は結構いらっしゃいます。
今月は尿漏れ(尿失禁)について考えてみたいと思います。
目次
尿失禁のタイプ
尿失禁は自分の意志とは関係なく尿が漏れてしまう状態で40歳以上の女性の4割以上は尿失禁を経験しているといわれています。
尿失禁はもともと泌尿器科領域の疾患が関係する症状ですが、婦人科の病気でも尿漏れが出てくる場合があり、何よりも今まで尿が漏れることがなかった人が妊娠を契機にもれるようになることは少なくありません。
尿失禁のタイプは大きく3つに分けられます。
1.腹圧性尿失禁
2.切迫性尿失禁
3.混合性尿失禁(※腹圧性と切迫性が入り混じっている尿失禁)
またこれ以外にも、機能性尿失禁(認知症や体の運動機能の低下のためトイレに行って排尿するという正常の行動ができない)や、溢流性尿失禁(排尿しようとしてもちゃんと尿がでないため膀胱内にどんどん尿がたまってしまい、容量を超えるとあふれ出す)があります。
1.腹圧性尿失禁
咳やくしゃみなどのお腹に力がかかったときにおこる尿漏れです。女性の尿漏れでは一番多いタイプです。
加齢や、妊娠中大きくなった子宮の圧迫で骨盤底筋群(骨盤の中の臓器を支えている筋肉群)がゆるんで、骨盤底筋で支えられている尿道括約筋(尿道を締める筋肉)の収縮が弱くなり、腹圧がかかると漏れてしまうことが原因です。
また、骨盤底筋群が緩むと骨盤内の臓器を支えられなくなって子宮や膀胱がさがってきて、腟から脱出する骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤を含みます)といわれる病態になります。
尿漏れに悩んでいる人の中には骨盤臓器脱を合併している場合がありますので、後に述べる骨盤底筋訓練でなかなか尿漏れが改善しない場合は産婦人科の受診をお勧めします。
2.切迫性尿失禁(過活動膀胱)
症状は「急にトイレに行きたくなり間に合わずに漏らしてしまう」、また、「水仕事や水の音を聞くだけでおしっこに行きたくなる」と頻尿(尿の回数が多い)です。
過活動膀胱の原因は脳や脊髄の障害による神経因性と、歳を重ねて骨盤底が弱くなった場合や原因がわからない非神経因性があり、非神経因性が全体の8割をしめます。
頻尿や尿失禁以外に痛みや血尿があるときはまれに膀胱がんや膀胱結石や間質性膀胱炎のような別の病気がかくれていることもありますので、泌尿器科受診が必要です。
過活動膀胱の診断には下のような過活動膀胱症状スコアが診断補助に用いられています。
過活動膀胱症状スコア(Overactive Bladder Symptom Score:OABSS)
過活動膀胱の診断基準
質問3が2点以上かつ質問1~4合計が3点以上
過活動膀胱の重症度
<合計点数>
軽症:5点以下
中等症:6~11点
重症:12点以上
尿失禁の治療について
1.行動療法
腹圧性尿失禁も切迫性尿失禁も生活習慣の見直し(体重のコントロール)と骨盤底筋訓練で改善することがあります。骨盤底筋を鍛えると尿漏れの改善のみならず、骨盤臓器脱の予防にもつながります。
女性下部尿路症状診療ガイドライン第2版(2019)にも腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対して 膀胱底筋訓練と肥満がある場合の体重減少が推奨グレードA(行うように強く勧められる)になっています。
① 骨盤底筋を鍛えましょう
骨盤底筋体操は尿道や腟、肛門を取り巻いている筋肉群を締める力を高める体操です。
骨盤底筋は出そうになるおならを我慢するとかウンチを途中で切るときに使う筋肉です。
この体操は、仰向けに寝ている姿勢でも、四つん這いの姿勢でも、立っているときも、座っているときにもできます。 肛門と腟を3~5秒くらい締め続けてまたゆるめるというのを5回繰り返し、これを1セットとします。1日10セットが目安ですが、はじめから一度に頑張ると筋肉も疲れてしまいますから、はじめは少ない回数で、1日のうちにこまめに分散して行ってください。
骨盤底筋を締めているつもりで腹筋も締めていることがあり、腹筋を締めると腹圧をかけているのと同じ状態になり、骨盤底筋を鍛えている意味がありませんので、お腹をリラックスさせて行ってください。
② 生活習慣を見直しましょう
肥満を解消することにより尿失禁が改善することがわかっています。お腹の中の臓器についた脂肪の重みが骨盤底筋に負担をかけるので骨盤底筋がゆるんで尿道の支えが弱くなるからです。
肥満があると尿失禁だけでなく骨盤臓器脱(子宮脱や膀胱瘤、直腸瘤)もひどくなりますし、何よりも糖尿病、高血圧、心血管疾患などの成人病のもとになります。
肥満度の判定にはBMI(Body Mass Index)が用いられています。
BMI=[体重(kg)]÷[身長(m)×身長(m)]
BMI | 判定 |
<18.5 | やせ |
18.5~<25 | 標準 |
25≧ | 肥満 |
標準体重は身長(m)×身長(m)×22です
例えば身長が160㎝の人なら1.6×1.6×22=56.32㎏が標準体重です。
1日の摂取カロリーは軽い労作の人(座り仕事)で標準体重×(25~30)Calになります。
体重を減らすのはなかなかむずかしいですが、BMIが25未満になるように少しずつでも食事をコントロールしましょう。
当院では栄養指導も行っていますので、外来でお気軽に相談ください。
③ 骨盤低筋体操の方法
骨盤底筋体操はいろいろな体勢でできます。下の図を参考に行ってみてください
仰向けの姿勢で
(1)仰向けに寝て、足を肩幅に開きます。
(2)ひざを少し立てて体の力を抜き、肛門と膣を締め、締めたままゆっくり5つ数えます。
(3)5つ数えたら力を抜きます。
もし途中で力が抜けてしまったら、また締めなおしてください。体操を続けて筋力が強くなれば、締め続けることができるようになります。
ひじやひざをついた姿勢で
(1)床にひざをつき、クッションの上にひじを立てて、手であごをささえます。
(2)肛門と膣をゆっくり締め、締めたままゆっくり5つ数えます。
(3)数え終わったら力を抜きます。
新聞を床に広げて読むときなど気軽にできます。
机にもたれた姿勢で
(1)机のそばに立ち、足を肩幅に開きます。
(2)腕を肩幅にして、手を机の上に置きます。
(3)この姿勢で、体重を全部腕に乗せます。背中はまっすぐに伸ばし、頭を上げて前を見ます。
(4)肩とお腹の力を抜いて、肛門と膣を締めます。
(5)3~5秒締めたら力を抜いてください。
台所のシンクやデスクを使ってもできます。
すわった姿勢で
(1)床につけた足を肩幅に開きます。背中をまっすぐに伸ばし、頭を上げて前を見ます。
(2)肩の力を抜き、お腹が動かないよう、お腹に力が入らないように気を付けて、ゆっくり肛門と膣を締めます。
(3)3~5秒締めたら力を抜いてください。
バスや電車に乗っている時や、家でテレビを見ている時にも行えます。
※女性櫃尿器科テキスト 竹山政美 編著 MCメディカ出版より改変
2.薬物療法
切迫性尿失禁(過活動膀胱)については薬物療法が効果的です。
膀胱の筋肉の収縮をやわらげる働きのある抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体を介して膀胱を緩めて容量を大きくする薬剤が使われています。抗コリン薬は便秘や口の中が乾くといった副作用が出る場合があります。
3.手術療法
骨盤底筋体操等で改善しない高度な腹圧性尿失禁に対して 中部尿道スリング手術 が行われています。
これはポリプロピレンメッシュのテープを尿道中ほどで尿道の後ろ側に通して尿道を支える手術です。テープを導入するアプローチの方法により下腹部で恥骨の少し頭側からアプローチするTVT(Tension free vaginal tape)と足の付け根の内側(パンティライン)からアプローチするTOT(Transobuturator tape)があります。
TVT手術は全世界で100万例ぐらい行われており、成功率は80~90%で再発率も低いですが、2~5%で膀胱が傷ついたり、ごく稀に腸管や大きな血管を傷つけたりすることがあります。
一方TOT手術では膀胱損傷や腸管損傷はTVT手術に比べて頻度は低いですが、術後の大腿部痛が6%くらい認められるようです。
いずれの手術もテープを締めすぎると尿が出にくくなるため、そのような場合はテープのカットが必要になる場合があります。