月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)

2022年09月06日(火曜日)

月経が始まる3日~10日から、イライラ、のぼせ、下腹が張る、下腹痛、腰痛、頭が重い、頭痛、乳房の痛み、おこりっぽくなる。落ち着かない、ゆううつになるなどの症状がでてきて日常生活に支障をきたし、月経が開始するとそのような症状がなくなるのを月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)といいます。

また月経前の症状でイライラや不安、気分の落ち込み、うつ症状のような精神症状がひどい場合には 月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)としています。

これらの症状は月経が始まると数日以内に改善し、月経4日目~13日目までは症状を認めません。

わが国では生殖年齢女性(周期的な排卵と月経がある女性)の70~80%は月経前になんらかの心や身体の変調を自覚しておりそのうち約半数はこれらの症状により日常生活に支障をきたしているといわれています。

さらに社会生活が困難になるような中等症以上のPMSやPMDDの女性は生殖年齢女性の5~8%と報告されており、PMS、PMDDと気が付かないまま医療機関を受診せずにいる女性も少なくないとのことです。

月経前症候群に悩まされる女性のイラスト

月経前不快気分障害に苦しむ女性のイラスト



1.PMSの症状は?

<PMS診断基準>
精神症状と身体の症状があります。
PMSと診断されるには過去3か月の月経周期において、月経前の5日間に下記の症状が少なくとも1つ存在し、さらにこれらの症状は月経開始後4日以内に解消し、少なくとも13日目までは再発しない、また、これらの症状は薬やアルコールなどによるものではなく、その後2周期(2か月)にわたって繰り返しおこり、社会的、経済的、学問的活動に明らかな障害を示す場合にPMSと診断されます。

精神症状 抑うつ
怒りの爆発
イライラ
不安
混乱
社会からの引きこもり
身体症状 乳房痛・乳房の張り
腹部膨満感(お腹の張り)
頭痛
関節痛・筋肉痛
体重増加
手足のむくみ

PMSの症状がみられる時期は限られています!!

排卵が終わって月経までの期間、特に月経が近づいてくると(月経の前の1週間)症状が出現します。
月経がはじまってからも下腹部の張る感じが持続したり、頭痛や下腹痛がひどい場合はPMSではなく、月経困難症の可能性があります。


2. PMDDとは?

PMDDとはPMSの症状のなかで精神症状が際立って強くあらわれている状態のことです。(PMSの特殊型(重症型)とみなされています)

月経の前になると気分変動、イライラ、抑うつ、倦怠感、不安等の症状で仕事や学校にいけなくなり、別人のようになってしまいますが、月経がはじまると症状はなくなっていき、月経開始1週間後からは穏やかな気持ちで過ごすことができます。

PMDDは次の4つの症状が主症状になります。

A
(1)気分の変動が激しい、情緒不安定(突然悲しくなる、または涙もろくなる等)
(2)ひどくイライラする、すぐに怒る、または対人関係での摩擦の増加
(3)著しい抑うつ気分、絶望感、または自己卑下の気持ちが現れる
(4)著しい不安や緊張

診断にはAの症状のうち1つ以上があり、Aの症状と下のBの症状をあわせて5つ以上の症状があることが必要になります。

B
(1)仕事・学校・趣味・友人関係などに対して興味が薄れる
(2)何事にも集中できなくなる
(3)倦怠感、疲れやすさ、気力が著しくなくなる
(4)食欲の著しい変化、過食や、特定の食べ物だけを多量に食べるなど
(5)不眠や過眠が強く現れる 意欲が低下しすぎて引きこもってしまう
(6)圧倒される、自分自身をコントロールできなくなる
(7)他の身体の症状:乳房痛、関節痛、筋肉痛、腹部膨満感、体重増加等

<PMDDの診断基準>(アメリカ精神医学会の規定を日本も参考にしています)
Aの症状が一つ以上あり、Bの症状をあわせて5つ以上あること、またこれらの症状のために日常生活が普通にできなくなったり、対人関係に支障が出たりすること、症状はほぼ毎月月経前に現れ、月経がはじまるとともによくなり月経後はほとんど症状を認めないこと、これらの症状が1年以上続いており、受診から2か月間も同様の症状がつづくときにPMDDと診断されます。


3.PMS、PMDDの原因

PMSやPMDDの原因についてはまだよくわかっていません。

思春期前の小児や閉経後の女性には症状はみられず、女性ホルモンを抑制する薬剤(子宮内膜症や子宮筋腫の治療薬で偽閉経療法として用いられる薬剤)の使用でPMS/PMDDの症状は改善し、この薬剤を中止すると症状が再度出現することがわかっています。

このことから、PMS/PMDDは女性ホルモンに深くかかわっていることがわかります。
特に排卵前には症状がみられず、排卵後(卵巣周期では黄体期にあたり、基礎体温は高温相のとき)に症状がみられる、また、排卵がない人には症状がみられないことより、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が同時に分泌されていることが誘因になっていると考えられています。
これらホルモンのバランスのわずかな乱れとその他の内分泌因子や環境因子などがからみあって発症するのではないかと考えられています。

エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモン以外にPMS/PMDD発症のカギとなると考えられている物質はセロトニンです。
セロトニンは脳内の神経伝達物質で脳の神経細胞から分泌され、気分や感情の動きに深くかかわっています。幸せホルモンとも呼ばれています。ストレスを受けた時の興奮状態や攻撃性を鎮める働きがあったり、食欲や性欲を抑制するので、食べ過ぎを抑えたりギャンブルやアルコール依存を抑える働きもあります。また、セロトニンは不安やイライラや感情が暴走するのをおさえたり、痛みを感じにくくする働きがあり、セロトニンの作用が弱くなると原因不明の痛みが出現することもあると考えられています。
体内のエストロゲンはタンパク質に結合している結合型と結合していない遊離型があり、女性ホルモンとしての活性が高いのが遊離型です。遊離型のエストロゲンはセロトニンの産生を高めその作用を増強します。PMDDでは遊離型のエストロゲンが低いことが報告されており、このことがセロトニンの作用の低下につながり、不安やイライラ、感情のコントロールができない、過食等の症状の誘因になるのではないかと考えられます。

PMS/PMDDを発症するリスク因子は多く、ストレス、飲酒や喫煙などの生活習慣、肥満、うつ病や不安神経症、パニック障害などの精神疾患の既往などが挙げられます。
職場のストレスがPMS/PMDDの発症の引き金となったり、ストレスによりPMSの症状がひどくなることがあります。また喫煙女性ではPSM/PMDDの頻度が非喫煙女性の4倍を超えるとの報告があります。
うつ病のような精神の疾患を患っている女性の中には月経前になると精神の症状がひどくなることが知られており、これはPMS/PMDDではなく、月経前増悪(premenstrual exacerbation: PME)と言われます。PMEが疑われる場合は速やかに精神科を受診することが勧められます。


4.PMS、PMDDの対処方法・治療方法

<薬物以外の対処方法>

(1)症状日記をつけてみましょう
月経が始まった日を1として月経の周期、日付、症状を記録します。
下のような表に○をつけていくだけです。

PMS症状日記(PDFファイル)

記録を続けてみると月経周期の何日目くらいにどのような症状がおこりやすいかがわかります。
症状の予測ができればそれに対する対処方法を講じることができます。
例えば、胸が張って痛くなるようなときは乳房を圧迫しないような下着、スポーツブラやブラトップの下着等を使用したり、むくみや体重増加など、身体の水分がたまっているときには塩分を控えた食事を摂るなど、また精神的に不調のときは大事な約束は入れないというような対応策をとることができます。

(2)日常生活や食生活を見直してみましょう
ストレスが大きくなるとPMSやPMDDの症状がひどくなることが知られています。現代社会で生きていく上でストレスは避けて通れないため、規則的な生活習慣、適度な運動、気分転換、そしてカルシウムやビタミン、タンパク質を十分に摂ることが大事です。月経前にはコーヒーやアルコールなど、刺激物を控えて塩分も少なめの食事にしましょう。

運動をしたあとに身体や気分がすっきりするのを感じておられる方もいらっしゃると思います。これは、適度な運動により脳内にいろいろなホルモンが分泌され、なかでもエンドルフィン(脳内麻薬といわれています)は気分が高揚したり苦痛や痛みを感じにくくしたりするホルモンでストレス解消に役に立ちます。ただ、エンドルフィンは多少息があがるような有酸素運動を30分以上行わないと分泌されないようです。 エンドルフィン以外にセロトニンも運動で出てきます。PMDDではセロトニンの作用が弱くなっていますので、運動することにより症状は改善します。

PMSやPMDDでは脳内の神経伝達をになうセロトニンが減少しています。セロトニンは不安やイライラを抑え、感情の暴発を防ぐホルモンで、必須アミノ酸のトリプトファンから作られます。トリプトファンを多く含む肉や魚、乳製品や大豆製品をたくさん食べるようにしましょう(高タンパク食)。
カルシウムも精神状態と深く関わっているといわれており、日本ではカルシウムが不足している女性が多いため、牛乳、チーズなどの乳製品、魚介類、海藻、大豆製品などカルシウムを多く含む食品を接種しましょう。


<薬物療法>

(1)経口避妊薬(Oral Contraceptive:OC)または低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(Low dose Estrogen Progestin:LEP)
OC、LEPは排卵を抑制するので(排卵しないようにする)PMSやPMDDが出現しません。ただ、どちらもエストロゲンとプロゲスチンが入っているため、人によってはPMS症状が悪化する場合もあります。血栓症の副作用で稀に心筋梗塞や脳卒中・脳梗塞が起きる可能性があり、35歳以上の喫煙者や乳がんの既往のある方、予兆のある片頭痛を持っている方には使用できません。

OC、LEPは閉経まで使用できることになっていますが、40歳以上の女性に対しては新血管系の副作用が発生しやすくなるため、慎重に投与するかどうかを考えなければなりません。

(2)漢方薬、その他の対症療法
東洋医学では、身体は気(き)、血(けつ)、水(すい)の3つの要素で構成されていると考えます。この3つの構成要素のバランスが悪いと身体にさまざまなトラブルが出やすくなると言われています。
月経に関連する症状の多くは「血」の異常が多く、血液がどろどろして血流が悪くなり、血行障害を引き起こす状態を瘀血(おけつ)と呼んでいます。瘀血はPMS、月経痛、生理不順、更年期障害等に関係していると言われ「気」や「水」の異常とともに現れることが多いと言われています。

うつ症状や冷えのぼせの場合は加味逍遙散、イライラが強くのぼせや便秘がある場合は桃核承気湯、むくみや冷えがあり体力がないばあいは当帰芍薬散、頭痛、肩こり、不眠、生理痛などがあるばあいは桂枝茯苓丸が使われています。それぞれの薬剤とそれに含まれる方剤、その作用を表にしてみました。これらの漢方薬は更年期障害の治療にも多く使われています。
その他、精神症状に関しては抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯なども使用されています。

対症療法としては不眠があれば睡眠薬や入眠剤、精神安定剤など、むくみには利尿剤を用いる場合もあります。

  方剤 加味逍遙散 当帰芍薬散 桂枝茯苓丸 桃核承気湯
血の巡りを改善 当帰    
芍薬  
牡丹皮(ぼたんぴ)    
川芎(せんきゅう)      
桃仁    
大黄      
気に働く 紫胡      
山梔子(さんしし)      
薄荷(はっか)      
桂枝    
水をひく 朮(じゅつ)    
茯苓(ぶくりょう)  
沢瀉(たくしゃ)      
  甘草    
ぼう硝      
使用目標 ホットフラッシュ、不眠、イライラ、うつ症状、肩こり等 冷え性、めまい、むくみ、生理不順、色白で痩せている人 頭痛、冷えのぼせ、肩こり、月経痛、比較的体力のある人 のぼせ、イライラの精神症状が強い、便秘、体力充実している人

(3)偽閉経量法:性腺刺激ホルモン放出ホルモン作動薬(Gonadotropin Releasing Hormone agonist:GnRHアゴニスト)
閉経するとPMSやPMDDの症状が消失するので、ホルモンレベルを閉経の状態にする治療法です。他の薬剤で治療効果が認められない場合の最終手段として使用します。
GnRHアゴニストはもともと子宮内膜症の治療薬として開発され、子宮筋腫にも使用されています。エストロゲンがほとんど分泌されない状態になるため、程度は人によりますが、更年期障害の副作用が出現します。更年期障害の症状にうつ症状があるので、うつ症状が出た場合は少量のエストロゲンを補充することもあります。
PMSやPMDDには保険適応がないため、子宮内膜症や子宮筋腫がある場合に限られます。通常6か月間しか連続使用できないため、6か月経つと薬剤を中止しなければなりません。中止するとまた排卵が戻るので、長期間にわたって排卵を起こしたくない方には他の黄体ホルモン製剤の内服を使用することがあります。

(4)抗うつ薬;選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)
セロトニンは神経から神経へと情報を伝達する物質ですが、放出されたセロトニンは次の神経に到達するまえに一部が回収されてしまうため、この回収分は役割を果たせません。このセロトニンの再吸収を阻害する薬剤がSSRIと呼ばれるものです。
現在うつ病の治療薬として広く使用されています。PMDDに効果がありますが、PMDDも重症になると精神科での治療が必要です。

産婦人科・周産期センター

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