生理痛(月経困難症)

2022年11月11日(金曜日)

生理痛は月経痛とも言われ、生理の時期におこってくる腹痛や腰痛、頭痛といった痛みを指しています。毎月の生理がつらくて鎮痛剤を服用しないとやっていけない、薬を服用しても仕事や学校にいけないということになると、これは月経困難症という病気になります。
月経困難症には月経時の痛みだけでなく、お腹の張り、吐き気、疲労・脱力感、食欲不振、いらいら、下痢、ゆううつなどの月経時にみられる様々な症状も含まれます。
今月は生理痛(月経困難症)について考えていきたいと思います。



1.生理痛で困っている人はどれくらいいるの?

平成16年度の女性の各ライフステージに応じた健康胃炎システムの確立に向けた総合研究(厚生労働科学研究)によれば年齢別の生理痛のある人の割合は10代~20代が一番多く、年齢がたかくなるにつれて月経痛がある人は少なくなってきます。
山陰地方の高校の女子生徒を対象としたアンケートでは生理痛が毎月~ほぼ毎月あると答えた生徒は高校1年生で39.6%、高校2年生で48.7%、高校3年生で55.5%と学年が上がるにつれて高くなっています。これは生理が始まった当初は無排卵のことが多く、12年して排卵周期が確立すると生理痛がひどくなり、分娩を経験する30代では生理痛が少しましになり、卵巣の女性ホルモンが少なくなる40代~50代は生理痛が改善するからと思われます。

2012年の研究で20歳から49歳の女性10000人にアンケートで月経時の疼痛に関する実態調査を行ったところ、約1/3の女性が何らかの医学的な介入を必要としているとの結果がでました。(円グラフ中心の紺色の部分)
生理のある女性の3人に1人は生理痛で苦しんでいるわけです(月経困難症)。


2.生理痛がおこるメカニズム

子宮の壁は筋肉(平滑筋)でできています。だから中で赤ちゃんが大きくなっても筋肉がどんどん伸びて子宮は大きくなることができます。
いっぽう、子宮は毎月妊娠に備えて内膜を分厚くし、排卵後は受精卵が来るのを待っています。子宮内膜は卵管の中で受精した受精卵を着床(床につく)させ、受精卵を育てる役割があり、いわば赤ちゃんにふかふかのベッド(お布団)を提供しているのです。

妊娠しなかった場合は準備された内膜をいったんはがしてしまい、次の月はまた新しい内膜を用意するようになっています。内膜がはがれて出血とともに外にでてくるのが生理(月経)です。

排卵後に卵巣からプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されますが、生理前になるとプロゲステロンが減少し、それが引き金となって子宮内膜細胞の細胞壁を構成しているリン脂質からいくつかの過程を経てプロスタグランジンが合成されます。
プロスタグランジンは子宮の平滑筋や子宮の血管を収縮させる働きがあり、プロスタグランジンE2F2αは分娩誘発や微弱陣痛にも用いられていますが、月経時には子宮をギューッと収縮させて中の内膜や出血を絞り出します。子宮の収縮がきつすぎると痛みを伴い、子宮の出口の頸管が狭い場合はなかなか排出されないので痛みがさらに強くなります。

プロスタグランジンによる子宮収縮は陣痛と同じように周期性があります。痛いときと痛みがましな時が交互にやってきます。またプロスタグランジンは腸管の平滑筋にも働き、腸の動きを活発にします。生理になると下痢をする人が多いのはこのプロスタグランジンによるものと考えられます。
月経が始まって当初(初経から12年くらい)は排卵がおこっていないことが多いのでプロゲステロン(黄体ホルモン)も分泌されず、プロスタグランジンは生成されません。このため生理痛はほとんどないことが多いですが、排卵がきちんとおこってくると生理痛は強くなってきます。


3.生理痛がひどい場合は別の病気が隠れているかもしれません。(器質性月経困難症について)

月経困難症には機能性月経困難症と器質性月経困難症があります。
機能性月経困難症とは子宮や卵巣に疾患がない場合の普通の生理痛で、器質性月経困難症は子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣腫瘍などの疾患のために生理痛がひどくなっている場合を指します。

機能性月経困難症(普通の生理痛)と器質性月経困難症(別の疾患による生理痛)の特徴

  機能性月経困難症(普通の生理痛) 器質性月経困難症(別の疾患による生理痛)
症状が初めて出てくる時期 初経から3年以内に発症 初経から5年以上たってから
好発年齢 15~25 30歳以上
加齢に伴う変化 年齢が上がると症状は改善 年齢とともに徐々に悪化
結婚後 改善 不変
分娩後 改善 不変
症状のおこる時期 月経直前~月経2日目くらい 月経中、悪化すると月経後も
症状の持続 4~48時間 1~5

器質性月経困難症の主な原因疾患

(1)子宮内膜症
(2)子宮腺筋症
(3)子宮筋腫

(1)子宮内膜症について

子宮内膜は妊娠した場合受精卵を受け止めて育てるという重要な役割があります。ただ、妊娠しなかった場合は排卵から約2週間で剥がれて出血とともに子宮の外に排出され(月経)また次の新しい子宮内膜を準備します。
この子宮内膜に似た組織が子宮の内側以外の場所ではびこる病気が子宮内膜症です。子宮内膜症の組織では毎月月経の時期に出血がおこり内膜症組織が剝がれます。
卵巣に子宮内膜症の組織がある場合は卵巣で毎月1回生理がおこりますが、出血は体の外には出すことができないため卵巣の中に血液がたまっていきます。生理が終わると出血は止まって卵巣の中にたまっている生理の血液は多少は吸収されて少なくなりますが、また次の生理で出血がおこるため、たまっている血液が少しずつ増えてきます。卵巣の中にたまった古い血液は溶けたチョコレートのような色や性状のため卵巣チョコレート嚢胞と言います。

子宮の後ろ側の腹膜(ダグラス腹膜)に子宮内膜症ができると毎月の出血で子宮と直腸が癒着し、性交痛や月経時の排便痛の原因となります。
卵管や卵巣の癒着以外にも腹腔内で生理の出血がおこることにより、受精や着床を阻害するような炎症性物質が腹腔内にたまっていき、不妊症の原因となります。
子宮内膜症の治療は手術療法以外に女性ホルモンをなくしてしまう偽閉経療法や排卵を抑える低用量ピル(OC)、ピルと同じ成分の低用量エストロゲン・プロゲスチン配合錠(LEP)、内膜を萎縮させる黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)などがあります。


(2)子宮腺筋症

子宮腺筋症は子宮内膜症の一種で子宮内膜の細胞が子宮の壁の筋肉の隙間に入り込み、そこで増殖し、月経になれば壁の中で出血がおこります。このため子宮の壁はその中で内膜腺細胞が増えるのと度重なる生理の出血のためぶ厚くなり生理痛もひどくなります。

治療は壁の中の内膜症(腺筋症)の部分を切除する手術療法と通常の子宮内膜症に用いる薬による治療(偽閉経療法やLEP、黄体ホルモン製剤)を行います。


(3)子宮筋腫

子宮筋腫はできる場所によって何ら症状を認めない場合と、過多月経(月経の出血量が多くなる)や月経痛がひどくなる場合があります。子宮の外側にできる漿膜下筋腫は月経痛や過多月経の症状はありませんが、子宮の内腔に面して発育する筋腫(粘膜下筋腫)は過多月経や月経痛の原因になります。

これらの疾患は産婦人科を受診していただくと、超音波検査(経腹エコー 経腟エコー)やMRI検査で診断でき、治療法も相談できます。


4.痛みは我慢せずに産婦人科医に相談しましょう。(治療法について)

月経困難症の治療法にはいろいろな選択肢があります。
子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などの疾患が原因となっている器質性月経困難症は原因となる疾患の治療が優先されますが、他に病気がない機能性月経困難症は次のような治療法があります。


1.非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) いわゆる鎮痛剤(痛み止め)

排卵後の子宮内膜ではプロスタグランジンが作られてそれが生理痛の原因になりますが、非ステロイド性抗炎症薬はプロスタグランジンが合成される時に必要な酵素の働きを抑えることによりプロスタグランジンの産生を抑える働きがあります。プロスタグランジンは子宮を収縮させる以外に体内で炎症や痛みを引き起こす原因となるため、プロスタグランジンが作られないようにすることによって痛みが軽くなります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)には内服薬、坐薬、注射薬があります。飲み薬には鎮痛解熱剤としてよく利用されるロキソプロフェン(ロキソニン)やアスピリン、メフェナム酸、イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセンがあります。
これらの薬は痛みが強くなってから内服してもすでにプロスタグランジンが作られているのであまり効果がありません。これから痛みが強くなってくるだろうなと思われるときもしくは痛む前から服用するのがベストです。


2.低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(Low Dose Estrogen Progestin : LEP)

この薬の成分は基本的に低用量経口避妊薬(ピル)(Oral Contraceptives:OC)と同じです。
鎮痛剤では生理痛がコントロールできなくなった場合は排卵を抑制して子宮内膜でプロスタグランジンが生成されないようにする薬剤であるOCやLEPを使用します。
OCは避妊目的で使用されるため保険適用にはなりませんが、LEPは子宮内膜症や月経困難症の治療薬としても使用され、この場合は保険適用となります。
LEPの副作用は吐き気や乳房の張り、不正出血、むくみ、食欲亢進などがありますが、これらの症状は服用を続けるうちに1~2か月でましになっていきます。血栓症のリスクは上がりますが、妊娠や分娩後の血栓症発症リスクと比べると数十分の一という低いリスクです。
LEPやOCは初経後3か月たっていれば安全に使用できます。思春期の女子でも月経困難症の背景に子宮内膜症が隠れている場合があるので、子宮内膜症を進行させないという観点から積極的にLEPを使用した方がよいという考え方もあります。

OC(経口避妊薬)やLEPは1シート28個(28日分)と1シート21個(21日分)のがあります。28日分が1シートになっている薬は最後の7個はホルモン剤が入っていない偽薬です。偽薬を服用しているときに月経(消退出血)がおこります。毎日服用するので服用忘れが少ない利点があります。
21日分のシートは21日間服用して7日間休薬となります。忘れないようにチェック欄を設けている薬剤もあります。


3.漢方薬

生理痛、月経困難症は漢方でいう瘀血(おけつ 血のめぐりが停滞していろいろな症状がでる)の状態です。血の巡りを改善させる駆瘀血(おけつ)剤の代表的な薬剤は加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)です。冷えやむくみがあり、体力がなく疲れやすい場合は当帰芍薬散、比較的体力があり、腹部の緊張がよく、のぼせ、下腹部に厚痛や抵抗を認めるときは桂枝茯苓丸を使います。頭痛、のぼせ、精神不安定が強いときには桃核承気湯も使用されます。
温経湯(うんけいとう)は骨盤内の血の巡りを良くし、骨盤内のうっ血を改善して冷えを改善しますが、生理痛にも効果があります。


4.プロゲスチン(黄体ホルモン):ディナゲスト錠

ディナゲスト錠1㎎は子宮内膜症の治療薬として使われてきましたが、月経困難症用に0.5㎎が発売されました。ディナゲスト1㎎はプロゲスチンの作用で子宮内膜の増殖が抑えられ卵巣機能も抑えられるので排卵はしなくなり、生理は来ない状態になります。生理痛に用いられる0.5㎎のディナゲストは卵巣の抑制作用は少なく排卵することもありますが、内膜は薄くなることにより生理の出血量が減少し、生理痛も改善します。ただ、副作用として少量の出血が断続的に続く場合があります。


5. 子宮内黄体ホルモン放出システム(レボノルゲストレル放出子宮内システム)ミレーナ52㎎

合成プロゲスチンであるレボノルゲストレルを子宮の中で持続的に放出するシステムで、もともとは避妊目的で作られました。プロゲスチンが持続的に子宮内膜に作用すると子宮内膜が薄くなり、また子宮内にIUDが入っているので妊娠(着床)できなくなります。内膜が薄くなることで生理の出血は少なくなり、生理痛も改善することが判明し、過多月経や月経困難症に保険適用となりました。一度挿入すると5年間は生理の出血を減少させ、痛みも緩和します。子宮筋腫や腺筋症で子宮が大きい場合はミレーナのカバーできる範囲が限られるため効果が出ない場合もあり、勝手に抜けてしまうこともあります。


5.日常生活で気を付けること(セルフケア)


身体、特に下腹部や腰を温めてみる

月経困難症に温熱療法と鎮痛剤を比較した研究報告(Armour.et. al. BMC Complement Altern Med.2019)では温熱療法は鎮痛剤と比較しても月経痛を軽減させていたとの結果が出ています。
からだを温めることで血液の循環がよくなり、特に骨盤内の血行がよくなると臓器や組織の酸素欠乏が改善され(プロスタグランジンは子宮の筋の収縮や血管収縮をおこし、痛みを伝達する疼痛繊維を敏感にする作用があり、臓器の血流が悪くなって酸素欠乏になります。)痛みの原因となるプロスタグランジンやヒスタミンなどが作られにくくなり痛みの悪循環から抜け出せます。

軽い運動やストレッチをしてみる

体を動かすことによって全身の血液循環がよくなり、骨盤内の血液循環もよくなります。骨盤の血行が改善することにより臓器や組織の酸素欠乏が改善される以外に、運動によって脳内麻薬と言われるエンドルフィンが分泌され、ストレスや痛みを感じにくくなります。
生理痛がひどく、つらいときは無理をせず体を休めてください。

リラックス

現代社会はストレスがいっぱいあります。命にかかわるようなストレスに遭遇した場合、人間は自分の命を守るため副腎からアドレナリンやコルチコステロイドを分泌させます。アドレナリンは血管を収縮させることによって他の臓器の血液を心臓に集めて生命の維持をはかります。命にかかわるようなストレスでなくても精神的なストレスがかかると生理痛がひどくなることが多いです。組織や臓器の血管が収縮して血流が悪くなり、酸素欠乏になってプロスタグランジン等の物質が生成されるからです。
生理でつらい時にはリラックス効果のあるお茶やアロマ(ラベンダーなど)、心地よい音楽で心身ともにリラックスしてみましょう。

産婦人科・周産期センター

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