本当はこわい性感染症(セックスでうつる病気)

2022年12月02日(金曜日)

最近、梅毒にかかる人が増えていて、ここ数年で急激に増加しています。
梅毒は治療を受けないでほおっておくと全身の臓器に広がって命の危険もでてきます。また妊娠中のお母さんが梅毒にかかっていると胎盤を通して赤ちゃんにも梅毒がうつり、流産や死産になったり障害をもって生まれてきたりします。梅毒の他にもいろいろな性感染症があり、今月はどんな性感染症があるかを見ていきます。すべての病気はきちんと治療を受ければ治癒します。

梅毒感染者の推移



1.どんな症状がでますか?

 性感染症は性行為(性交やオーラルセックス、キス、アナルセックスを含む)で感染するため、症状が出る場所は性器だけではありません。感染しても症状が出ない場合もありますので、要注意です。

症状 考えられる疾患
かゆみやぶつぶつがある 性器ヘルペスの初期
陰部や性器にとさかのようなイボ 尖圭(せんけい)コンジローマ
おりものが多く、かゆみがある トリコモナス腟炎 外陰腟カンジダ症
陰毛の生えている場所のかゆみ 毛じらみ症
痛くもかゆくもないしこり 梅毒
痛みがある、尿がしみる 性器ヘルペス
おりものが増える、不正出血 クラミジア感染症 淋菌性子宮頸管炎 トリコモナス腟炎
排尿痛(排尿の時に痛む) 淋菌性尿道炎
下腹痛、発熱 クラミジアや淋菌による骨盤腹膜炎
右上腹部痛 クラミジアや淋菌による肝周囲炎


2.性感染症の特徴

 感染しても症状がでなかったり、症状が軽くてすぐにおさまったりするため自分が感染していることに気づきにくい特徴があります。このため、人に感染させたり、知らないうちに病気が進行して重症になることがあります
 自分が感染していたらパートナーも感染していることが多く、自分だけ治療しても、治療していないパートナーからまたうつされることがあります(ピンポン感染)。自分とパートナーが同時に治療することが必要です。
 性感染症にかかったまま妊娠して治療を行っていない場合はや妊娠中に新しく性感染症にかかると、病気によってはお腹の中の赤ちゃんに感染(胎内感染)したり、腟を通って生まれるときに感染(産道感染)することがあります。生まれてきた赤ちゃんは重い病気になったり、障害がでたりします。


3.どんな病気がありますか? 検査方法と治療方法


①梅毒

 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)といわれる細菌(スピロヘータ)の感染による疾患です。大きく先天梅毒(胎児のときに母体から感染し、生まれつき梅毒をもっている)と後天梅毒(性行為で感染する)にわかれます。
 男女別年齢別の感染者の数を見ると女性では20代でピークになっており、男性は20代~50代まで幅広く分布しています。

後天梅毒は進行の度合いにより1期~3期の3つに分類されます。1期と2期は感染力が強く性行為感染や母子感染を引き起こします。この時期に治療をすれば梅毒は治癒します。3期になると感染力はありませんが、治療は難しくなり、進行すると命を脅かすこともあります。

  感染からの期間 症状
潜伏期 感染~3週間 症状はなく検査をしても陽性にならない
第1期梅毒 3週間~3か月 感染した場所(陰部等)に硬いしこりができ、中心に潰瘍ができる。痛みはない。。近くのリンパ節(足の付け根等)が腫れる。症状は自然に消えていくが治ったわけではない
前期潜伏梅毒 感染後1年未満 症状はなくても病気は進行していき、性的接触で感染し、妊娠中であれば母子感染の可能性もある。
第2期梅毒 3か月~3年 トレポネーマが全身に広がるため、発熱、リンパ節腫脹、のどの痛み、頭痛、脱毛、疲労感、難聴、体重減少等のいろいろな症状がでる。皮膚に赤~茶色でかゆみのないザラザラした発疹(バラ診)がでる。陰部や口などに扁平なイボ(扁平コンジローマ)ができる。
後期潜伏梅毒 感染後1年以上 症状はなくても病気は進行していき、性的接触で感染し、妊娠中であれば母子感染の可能性もある。
第3期梅毒 3年~ 治療しなかったら皮膚、骨、内臓にゴム腫ができ、周囲の組織を破壊、鼻が落ちるなど容貌の変化がでることもある。他、梅毒性の動脈瘤、神経梅毒(進行麻痺では記憶力低下、認知症、全身麻痺)、脊髄癆(疼痛や視力低下、失明)等がおこる。梅毒の治療を行っても治らないことが多い。近年、第3期の梅毒は非常に少ない。

 検査方法は 血液検査と潰瘍になっている部分からの直接病原体(トレポネーマ)を採取し顕微鏡で判定する方法があります。血液検査は2~3種類を組み合わせて行い、判定します。梅毒トレポネーマは人の体の外では生存できないため、培養検査はできません。
 治療はペニシリン系の抗生剤(アモキシシリン)の長期内服(1か月以上)ですが、ペニシリンにアレルギーがある場合はミノサイクリンやスピラマイシンも使用されます。神経梅毒で髄膜炎や脳神経炎、眼の症状がある場合はベンジルペニシリン300~400万単位の点滴静注を1日6回、2週間行います。

先天梅毒について

 妊娠初期の血液検査には梅毒のスクリーニング検査が含まれており、ほぼ全員の妊婦が受けているため、活動性梅毒があるとわかった場合はすぐに治療が開始されますが、妊婦健診を受診していない妊婦で梅毒の感染があり、治療を受けていない場合には梅毒トレポネーマは胎盤を通って胎児に感染し、胎内で胎児梅毒を発症、または生まれた後に梅毒を発症します。胎児梅毒はたいてい出生直後に死亡しますが、出生後に発症した梅毒は、特徴的な顔貌、視力障害、難聴などがおこります。


②性器クラミジア感染症

 クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)という細菌より小さい病原体による感染症です。クラミジア・トラコマチスは性交により子宮頸管の細胞に感染したのち、子宮内膜から卵管、骨盤の腹膜へと感染が広がり、子宮頸管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎、そしてまれに肝周囲炎の原因となり、不妊症や、子宮外妊娠、骨盤の痛みやお腹の痛みを引き起こすことがあります。また、近年の傾向としてオーラルセックスによるクラミジア咽頭炎、アナルセックスによる直腸炎、クラミジアで汚染された手指の接触による結膜炎、そして妊娠中にクラミジア感染がある場合は切迫流早産、赤ちゃんが生まれるときに産道で感染して新生児の咽頭炎や肺炎を起こすこともあります。
 症状は頸管炎ではおりものが増える、男性のばあいは尿道炎をおこすため尿道の軽い痛みやかゆみ、また、膿がでることがあります。卵管炎や骨盤腹膜炎になると発熱と下腹痛、肝周囲炎を起こすと右上腹部痛がでます。
 診断のための検査方法は女性の場合は子宮頸管、男性の場合は尿道の粘膜を綿棒でこすって細胞を採取し、核酸増幅法などで検査します。クラミジア感染の約10%に淋菌感染を合併しているという報告があり、淋菌とクラミジアを同時に検出できる核酸増幅法は有用です。クラミジア咽頭炎の場合は咽頭を綿棒でこすって検体をとる方法と咽頭うがい液で検査する方法があります。
 治療は抗生剤の内服ですが、パートナーも一緒に治療することが重要です。薬剤はマクロライド系の抗生剤(アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ミノマイシン等)やキノロン(レボフロキサシン、トスフロキサシン等)が用いられます。


③淋菌感染症

 淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症で、おりものの増加や不正出血を認めることがあります。淋菌性尿道炎をおこすとおしっこをするとき尿道がすごく痛みます。クラミジアと同様子宮頸部から子宮内膜、卵管へと炎症がひろがり、骨盤腹膜炎や稀に肝周囲炎をおこします。卵管炎や骨盤腹膜炎では発熱と下腹痛を認め、不妊症や子宮外妊娠の原因になります。男性でも精巣上体炎をおこすと精子の輸送がうまくいかなくなり、男性不妊の原因になります。
 オーラルセックスで咽頭に淋菌が感染した場合、淋菌性咽頭炎がおこりますが、症状はほとんどなく、性器淋菌感染症よりも治りにくいため、性器淋菌感染症が治っても咽頭の淋菌は残って他の人にうつす原因となります。
 診断には子宮や尿道からの分泌物をスライドグラスに塗布、グラム染色を行って顕微鏡で見る方法、分泌物を培地に接種して培養する方法、PCR法に代表される核酸増幅法(PCR法以外にSDA法、TMA法があります)があります。
 治療は内服の抗生剤に対する耐性菌が増えてきているため、原則 セフトリアキソン、セフォジジム、スペクチノマイシンといった注射薬で治療しています。子宮頸管炎ではこれらの抗生物質は1回の注射で治ることが多いですが、咽頭炎や骨盤腹膜炎を起こした場合はさらに3~7日間の注射が必要です。スペクチノマイシンは咽頭炎には効果がないと言われています。またセフトリアキソンにも耐性の淋菌が報告されているため、治療が終了したあと3日以降で淋菌が消えているかの効果判定の検査を受けることが重要です。


④HIV感染症 / エイズ(後天性免疫不全症候群)

 HIV(ヒト免疫不全ウイルス、Human Immunodeficiency Virus)による感染症です。このウイルスは血液や精液、腟分泌物(おりもの)のなかにいて、傷ついた皮膚や粘膜から侵入します。HIVがからだに侵入して感染すると2~4週間後に風邪やインフルエンザに似た症状がでますが、自然になおります。その後症状が出ない期間(無症候期)にはいりますが、この期間にHIVは免疫の働きを担うリンパ球(CD4陽性Tリンパ球)に感染してリンパ球をどんどん破壊します。症状はないのでパートナーにうつす危険性があります。CD4陽性Tリンパ球が少なくなると免疫力が低下していき、治療を受けなければ5年~10年でエイズを発症します。エイズになると免疫力が低下しているため普段は病気を引き起こさないようなカビや弱い細菌でも感染して命を脅かすような感染症をおこします。
 HIVに感染する人やエイズを発症する人は2013年がピークで最近は少し減少傾向です。それでもHIVの新規感染者は年間600人以上で、エイズになる人は年間300人近くいます。

 HIVに感染したかどうかを調べる検査は血液検査です。まずHIVスクリーニング検査を行い、陽性であれば確認のための2次検査を行います。一次検査で陽性になった30人に1人が本当の陽性で、残りの人は擬陽性(本当は陰性)です。もし自分が陽性と判明した場合はパートナーにも検査をうけてもらいましょう。全国の保健所では匿名、無料でHIVの検査が受けられます。
 治療は飲み薬を数種類組み合わせて服用します。最近HIV/エイズの治療法はめざましく進歩し、抗HIV薬を服用していればウイルスの増殖は抑えられ、その結果CD4陽性Tリンパ球の数も回復するので、一般の人とほぼ同じくらい長生きができるようになりました。ただ、ウイルスを0にすることはできないため、薬はほぼ一生飲み続けなければなりません。
 HIVは感染力の弱いウイルスなので、日常生活での接触(プールやお風呂、トイレの便座、ハグや軽いキス、咳やくしゃみ、蚊に刺されるなど)では感染しません。


⑤性器ヘルペス

 単純ヘルペスウイルス1型もしくは2型による感染症です。性的接触のあと2日~10日後に接触した場所、たいていは外陰部に小さな水疱がたくさんでき、1~2日で水疱が破れて潰瘍になります。水疱のなかの水や潰瘍の表面には多数のヘルペスウイルスがいます。潰瘍になると痛みがでます。初めて単純ヘルペスウイルスに感染した場合は症状がひどく、痛くておしっこに行けなかったり、足の付け根のリンパ節が腫れて痛みがでたり、熱がでたりします。
 検査は水疱の内用液や潰瘍の表面を綿棒でこすって取ってきたものを抗原診断法などで検査します。
 治療は初めての感染した場合で症状が軽い時は飲み薬(アシクロビル200㎎1日5回5~10日間、パラシクロビル500㎎1日1回5~10日間、ファムシクロビル250㎎1日3回5~10日間)、重症の場合は注射薬(アシクロビル点滴静注 1日3回7日間)で行います。稀に脳炎や髄膜炎を起こすこともあり、その場合は治療日数が2~3週間となります。何も治療しなくても2~3週間たてば治ることもあります。一度かかるとウイルスは体の中に残っていて体調がわるくなって免疫が低下した時に再発して症状がでます。再発の際の症状は初めて感染した時に比べると軽いです。


⑥尖圭コンジローマ(せんけいコンジローマ)

 ヒトパピローマウイルスの6型と11型が原因です。
 性的な接触により皮膚や粘膜のごく小さな傷や子宮の入り口の細胞に感染します。感染してから1か月~8か月くらいの潜伏期があり、その後ウイルスの侵入した場所に鶏のとさかのような、一部カリフラワー様のイボができます。自覚症状はありませんが、大きくなる、またはできた場所により痛みやかゆみが出る場合があります。また、感染しても症状がでない人もいます。
 ヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papilloma Virus)は現在200種類以上の遺伝子の型がわかっており、16、18型をはじめ約16種類の型は子宮頸癌に関係するハイリスクHPV(癌になるリスクが高いHPV)です。尖圭コンジローマの原因となる6型と11型はローリスクHPV(癌になるリスクがないまたは少ない)で、子宮頸癌の直接の原因にはなりにくいですが、子宮頸癌の前癌病変を引き起こすことはあります。現在行われている子宮頸癌ワクチンの4価ワクチンと9価ワクチンには6型と11型をカバーするので、尖圭コンジローマの予防になります。
 診断は原則として感染の機会の確認と見た目で行いますが、切除した組織の顕微鏡検査の結果でも診断できます。尖圭コンジローマの場合HPV6型と11型以外のハイリスクHPVにも感染している場合があり、子宮頸癌検診が必要です。
 治療は塗り薬(イミキモド5%クリーム)、液体窒素による凍結療法、外科的切除があります。尖圭コンジローマの20~30%は自然に消えていくと言われていますが、自然に治った場合も治療して治った場合も30%くらいに再発がおこります。
 妊娠中に尖圭コンジローマがわかった場合、生まれるときに産道でHPV6やHPV11に感染して1%以下で若年性再発性呼吸器乳頭症にかかることがあります。これは子供の喉(のど)にHPVによる良性の腫瘍ができてのどをふさいでしまう疾患です。切除しても何回も再発をくりかえし、その都度切除しなければならない厄介な病気です。分娩のときに尖圭コンジローマが治癒していると赤ちゃんに感染するリスクはかなり少なくなりますが、腟の中や子宮の入り口にたくさんのコンジローマの病変がある場合には帝王切開も考慮されます。


⑦その他の性感染症


腟トリコモナス症(トリコモナス腟炎)

 腟トリコモナス(Trichomonas Vaginalis)という原虫による感染症です。症状は悪臭のあるおりものが増加、外陰部にかゆみがでます。男性も尿道炎をおこしますが、症状はでないか、軽度です。
 診断は腟内のおりものを採取して直接顕微鏡でトリコモナス原虫を見つけることです。尿検査でわかるばあいもあります。
 治療はパートナーと同時期に同期間行うことが重要です。薬剤はメトロニダゾール、チニダゾールの内服ですが、妊娠3か月以内の場合はメトロニダゾールの腟錠が用いられます。

毛じらみ症

毛じらみという吸血昆虫が原因です。毛じらみの大きさはゴマ粒ぐらいでヒトの毛髪(陰毛)に寄生して毛根付近で血を吸います。血を吸う時に毛じらみの唾液が皮膚の中に入ると猛烈なかゆみがでます。性行為のときに陰毛どうしが直接触れることにより感染します。タオルやシーツからも感染するため家族内感染もあります。

 診断はかゆい部分の陰毛を抜いて根元を顕微鏡で観察し、毛じらみと判定します。
 治療は陰毛をすべて剃ることです。毛じらみは毛のない環境では生きていけないため、徐々に減っていき、やがて全滅となります。剃ることができない場合は殺虫剤(フェノトリン)のシャンプーを使用しますが、卵には効果がないので孵化のサイクルにより3~4日ごとに3~4回繰り返して使用します。


4.性感染症にかからないようにするには?

自分とパートナー、そして生まれてくる赤ちゃんを守るために次のようなことに気をつけましょう。

① 妊娠を希望していない場合はコンドームをつけてセックスをしましょう。コンドームは相手の性器に触れる前に正しく装着しましょう。ただし、コンドームの着用では防ぐことができない性感染症もあります。

② 不特定多数の人とセックスすると感染の機会がふえます。いろいろな病原体をもらう可能性が増加するからです。

③ 妊娠を計画する前に様々な性感染症にかかっていないかどうかの検査を受けておくことは重要です。性感染症にかかっている場合、症状がなくても放置している重症になる病気もあります。

産婦人科・周産期センター

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