子宮内膜症ってどんな病気?― 現代病である子宮内膜症について詳しく知りましょう ―

2023年05月02日(火曜日)

はじめに

 子宮内膜症は女性ホルモンや月経に深くかかわっている病気です。子宮内膜症は女性ホルモンが潤沢に出ている20代~30代の女性に発生して月経を経るごとに悪化しますが、妊娠や閉経で症状がましになります。
 昨今は晩婚化や晩産化、一人の女性が生む子供の数が減るなどでずっと月経がある状態がつづき、子宮内膜症にかかる人が以前と比べて増えてきており、子宮内膜症は現代の病気と言われています。子宮内膜症は妊娠分娩が可能な年齢の女性の約10%にみられるありふれた病気ですが、ひどくなると不妊の原因になったり(不妊症の女性の50%は子宮内膜症があるといわれています)慢性の骨盤の痛みで日常生活も障害されます。
 子宮内膜症は閉経するまで続く病気ですが、治療法の選択肢も多いのでそれぞれのステージにおいてベストな治療法を選択していくのがよいと思われます。


1.子宮内膜について

 子宮内膜症を理解するうえで 子宮内膜のことを知っておかなければなりません。
 子宮内膜は子宮の内側を覆っている組織で、妊娠の成立や胎児の発育に深くかかわります。卵巣で作られる女性ホルモン、特にエストロゲンによって子宮内膜は分厚くなり、排卵後にでるプロゲステロンによって妊娠に適した、受精卵を迎え入れる形態(脱落膜化)に変化し、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が少なくなるとはがれて出血(月経)します。

 卵管の中で精子と卵子が出会って受精し、卵管から子宮の中に運ばれる間に受精卵は卵割を繰り返し桑実胚と呼ばれる状態になって子宮に到達します。
 一方で子宮内膜はホルモンの影響で脱落膜に変化し、胚を受け入れて(着床)妊娠が成立します。
 この場合、内膜から変化した脱落膜は胚から分泌される化学物質を認識して正常に発育する胚のみを選別して着床させる働きがあるようです。


2.子宮内膜症とは

子宮内膜症とは子宮内膜の細胞や、組織が本来ある子宮の内腔以外の場所で増えていき、そこで月経の時に出血をおこす病気です。

-子宮内膜症はどこにできますか? 発生部位

 子宮内膜症が発生する部位は子宮の後ろ側で直腸との間にある腹膜(ダグラス窩)が一番多く、その他卵巣や子宮の表面(漿膜)、子宮の壁(筋層)、子宮の後ろで仙骨との間に張っている仙骨子宮靭帯などに多く発生します。
 卵巣に子宮内膜症が発生すると子宮内膜症の内膜は卵巣の奥深くに入り込んで生理の時に出血を起こし、卵巣の内部に生理の出血がたまっていくため卵巣は腫れて大きくなり中には古い血液がたまっています。古い血液は溶けたチョコレートに似ていることから卵巣子宮内膜症は卵巣チョコレート嚢胞と呼んでいます。

 子宮の壁(筋層)にできる子宮内膜症は子宮腺筋症とも呼ばれ、子宮の壁の中で生理の出血がおこるため生理痛がひどく、また子宮自体も大きくなります。また、腺筋症では生理の血を止める働きがうまく働かないため生理の出血が多くなります。(過多月経)

 まれにほかの臓器に子宮内膜症が発生することがあり(異所性子宮内膜症)、小腸や大腸、直腸に発生した場合は生理のときに下血や排便痛があったり、膀胱や尿管に発生すると生理時に血尿や排尿痛がでたり、肺や胸膜、気管支に発生すると生理時に血痰や喀血を起こすことがあります。


-どのようにして子宮内膜症が発生しますか?発生機序

 子宮内膜症が発生するメカニズムについてはいろいろな仮説があります。
 月経血が卵管を通ってお腹の中に落ち、(実際生理中に手術を行うとお腹の中に月経血がたまっています)月経血のなかに含まれる子宮内膜細胞や組織が骨盤の腹膜や卵巣にくっついてそこでどんどん増えていく子宮内膜移植説と腹膜や卵巣を覆っている上皮の細胞が変化して(化生を起こす)子宮内膜に変化する体腔上皮化生説が有力ですが、その他子宮内膜細胞が血液やリンパ液の流れに乗って違う臓器に運ばれると考える血行性やリンパ行性転移説や移植説で移植されるのは子宮内膜細胞ではなく、子宮内膜組織の中に含まれる幹細胞ではないかと考える幹細胞説など、さまざまな仮説が言われており実際のところはよくわかっていません。


-子宮内膜症の症状は?

 子宮内膜症の主な症状は生理痛(下腹痛、腰痛など)です。子宮内膜症がひどくなると生理以外の時、例えば排卵の前後や生理前にも下腹痛や腰痛がでてきます。
 子宮内膜症の生理痛は生理の出血が一番多い時に一番痛みが強く、生理が始まってまだ出血が多くないときに一番痛くて最大出血で痛みがましになる機能性月経困難症とは症状が異なります。また、子宮内膜症の生理痛は年齢とともにひどくなることが多いです。

その他、子宮内膜症と診断されている人の自覚症状とその頻度は次のようなものがあります。(日本子宮内膜症協会より)

生理痛(月経痛) 87.7% 吐き気・嘔吐 29.0%
下腹部痛 71.3% 不正出血 24.0%
腰痛 57.4% 下痢 23.1%
性交痛 56.2% 頭痛 20.6%
不妊 50.9% 便秘 20.1%
過多月経(出血が多い) 48.1% 頻尿 18.2%
肛門痛 42.6% 生理時の発熱 17.6%
生理時の排便痛 39.5% 背部痛 17.0%

-子宮内膜症の診断

 子宮内膜症は腹腔鏡検査や開腹手術で直接病巣を見て診断しますが、確定診断は手術や検査で採取した組織の標本を顕微鏡で観察して診断します。しかし すべてのケースで手術や腹腔鏡をするわけにはいかないため、自覚症状と診察の所見、超音波やMRIなどによる画像所見から診断します。
 卵巣チョコレート嚢胞や子宮腺筋症は画像により診断できます。
 血液検査ではCA125やCA199の値が子宮内膜症で上昇することが知られています。これらの腫瘍マーカーは他に高値をしめす病気があるため、子宮内膜症の診断には使えませんが、経過観察に利用されています。


-卵巣チョコレート嚢胞の悪性化

 40歳代~50歳代でサイズの大きいチョコレート嚢胞(径6㎝以上)は0.5~0.7%(150人~200人に一人)の割合で癌化することが知られています。
 このため卵巣チョコレート嚢胞があり、手術をせずに経過観察をする場合は、3~6カ月ごとに超音波検査により嚢胞のサイズや嚢胞の内部に腫瘤ができていないかどうかをチェックする必要があります。
 急激にサイズが大きくなる場合や嚢胞の内容液の状態が変化するとか、内部に腫瘍ができてくるなどの場合は悪性の可能性が高いと判断されます。


3.子宮内膜症の治療

子宮内膜症の治療法は大きく分けて薬物療法と手術療法の2つになります。治療法を選ぶにあたって考慮される因子としては次のようなものがあります。

① 痛みの症状があるかどうか、痛みの程度が強いかどうか
② 不妊があるかどうか
③ 将来 妊娠分娩を希望しているかどうか
④ 卵巣チョコレート嚢胞があるかどうかとチョコレート嚢胞のサイズ
⑤ 子宮内膜症の広がりの程度
⑥ 年齢
⑦ これまで子宮内膜症の治療を受けているかどうか


-子宮内膜症の薬物療法

 子宮内膜の細胞はエストロゲンによってどんどん増えて(増殖)いきますが、排卵の後にプロゲステロンが出てくると増殖が止まります。子宮内膜症もエストロゲンによって細胞が増えていくため病状は進行しますが、プロゲステロンがあると増殖は止まり病気が進行しなくなります。
 妊娠中は胎盤からエストロゲンとプロゲステロンが大量に分泌されますが、10カ月間排卵や月経がないため子宮内膜症は改善します。(排卵の時には多量のエストロゲンが分泌されるので内膜症は進行します。)
 また、閉経すると卵巣からエストロゲンが分泌されなくなるため子宮内膜は委縮し、子宮内膜症の病巣も小さくなっていくので痛みの症状も改善します。

(1)OC・LEP

 これらのことより低用量ピル(経口避妊薬:OC)や低用量ピルと同じ成分で月経困難症の治療に用いられる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)が子宮内膜症の痛みの緩和と進行を抑える目的で年齢が若い人に投与されます。
 LEPの副作用は吐き気や乳房の張り、不正出血、むくみ、食欲亢進などがありますが、これらの症状は服用を続けるうちに1~2か月でましになっていきます。重篤な副作用である血栓症のリスクは上がりますが、妊娠や分娩後の血栓症発症リスクと比べると数十分の一という低いリスクです。LEPは40歳以上になると心血管の副作用が増加するため慎重に投与する必要性がありますが、50歳または閉経までは使用できます。
 ただ、乳癌や子宮体癌のようなエストロゲンに依存している腫瘍の既往のある方、静脈血栓塞栓症を起こしたことがある人、前兆のある片頭痛がある場合にはLEPは投与できません。(禁忌)
 LEPやOCは初経後3か月たっていれば安全に使用できます。思春期の女子で生理痛がひどい場合はその背景に子宮内膜症が隠れている場合があるので、子宮内膜症を進行させないという観点から積極的にLEPを使用した方がよいという考え方もあります。

 OC(経口避妊薬)やLEPは1シート28個(28日分)と1シート21個(21日分)のがあります。28日分が1シートになっている薬は最後の7個はホルモン剤が入っていない偽薬です。偽薬を服用しているときに月経(消退出血)がおこります。毎日服用するので服用忘れが少ない利点があります。
21日分のシートは21日間服用して7日間休薬となります。忘れないようにチェック欄を設けている薬剤もあります。

*プロゲステロンとは排卵のあとに卵巣から分泌されるホルモンですが、プロゲステロンと同じような作用を持っているけれど構造式がプロゲステロンと少し異なる、合成された薬物(ホルモン)をプロゲスチンと呼んでいます。


(2)合成プロゲステロン製剤(プロゲスチン):ジエノゲスト(ディナゲスト錠(R)

 プロゲステロンは子宮内膜細胞の増殖を抑える働きがあり、この作用を利用してジエノゲストは子宮内膜症の過多月経や生理痛、慢性の痛みに効果があるとされています。また、卵巣チョコレート嚢胞も小さくなります。ジエノゲストはプロゲスチンの作用で子宮内膜の増殖が抑えられ卵巣機能も抑えられるので排卵もしなくなり、生理はとまってしまいますが、副作用として少量の出血が断続的に続く場合があります。血栓症のリスクは低いです。
 子宮腺筋症に対してジエノゲストを使用した場合は、副作用の不正出血がなかなか止まらず、時に大量出血を起こすこともあるため、そのようなばあいは一時的に服用を中止してみるなどの工夫が必要です。


(3)GnRHアナログ(性腺刺激ホルモン放出ホルモン アナログ)

 GnRHアナログにはGnRH受容体作動薬とGnRH受容体拮抗薬があります。
 GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は脳の視床下部というところで作られているホルモンで脳下垂体に直接作用して性腺刺激ホルモン(FSHやLH)の分泌を促し、性腺刺激ホルモンが卵巣に働いてエストロゲンの分泌や排卵にかかわります。
 GnRHアナログはGnRHに似た構造をしていますが、性腺刺激ホルモンを分泌させる働きはないため、結果的に性腺刺激ホルモンが分泌されなくなり、卵巣からのエストロゲン分泌もなくなります。
 エストロゲンがなくなると閉経と同じような状態になり、子宮の内膜は委縮して生理も来なくなり、子宮内膜症も委縮して痛みなどの症状は改善します。

 副作用はエストロゲンのレベルが低くなるため、更年期障害の症状(ホットフラッシュ、発汗、肩こり、血圧上昇、脱毛等)が出現する場合があります。またエストロゲンを低下させるため骨粗しょう症の危険性があるので連続して6カ月以上は投与できません。

GnRHアゴニスト(受容体作動薬) GnRHアンタゴニスト(受容体拮抗薬)
一般名 商品名 一般名 商品名
ブセレリン酢酸塩 スプレキュア点鼻液 レルゴリクス レルイナ経口剤
スプレキュア注射薬    
酢酸ナファレリン ナサニール点鼻液    
リュープレロン酢酸塩 リュープリン注射薬    

(4)子宮内黄体ホルモン放出システム(レボノルゲストレル放出子宮内システム)ミレーナ52㎎(R)

 合成プロゲスチンであるレボノルゲストレルを子宮の中で持続的に放出するシステムで、もともとは避妊目的で作られました。プロゲスチンが持続的に子宮内膜に作用すると子宮内膜が薄くなり、また子宮内にIUDが入っているので妊娠(着床)できなくなります。内膜が薄くなることで生理の出血は少なくなり、生理痛も改善することが判明し、過多月経や月経困難症に保険適用となりました。一度挿入すると5年間は生理の出血を減少させ、痛みも緩和します。
 ただ、子宮筋腫や子宮腺筋症があって子宮が大きくなっているときはミレーナが内腔をすべてカバーできなくなり、出血が多くなることがあります。
 また、かってに抜けてしまうこともあり、定期的なチェックが必要です。


(5)漢方薬

婦人科三大漢方処方である下記方剤が使用されています。

① 当帰芍薬散
② 加味逍遙散
③ 桂枝茯苓丸

月経痛に対してある程度の改善はありますが、子宮内膜症が劇的に改善するわけではありません。このほか温経湯や芍薬甘草湯も効果があるようです。


(6)消炎鎮痛剤(非ステロイド性消炎鎮痛剤 NSAIDS)

 月経痛や排卵痛、その他の下腹痛に対して処方されます。痛みを緩和する治療法のため子宮内膜症が改善するとか、治癒するための治療法ではありません。


-子宮内膜症の手術療法

 子宮内膜症の手術は保存手術と根治手術があり、保存手術は子宮や卵巣を温存する方法で、子宮内膜症病巣の焼灼、癒着の剥離、卵巣チョコレート嚢胞の摘出が行われます。根治手術は子宮内膜症の病巣とともに子宮と両側の卵巣・卵管を摘出する方法で、痛みなどの症状がひどく妊娠希望のない閉経に近い年齢の方に行います。


保存手術

 開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、通常、保存手術の場合は開腹ではなく腹腔鏡手術が選択されます。腹腔鏡手術は傷(術創)が小さいため術後の痛みが少なく早期離床、早期の社会復帰が可能です。開腹術に比べて腹腔鏡手術は術後の癒着が少ないメリットもあります。さらに腹腔鏡のスコープで深いところまで拡大して観察ができるため病変の見落としが少なく、繊細な手術が可能です。

 卵巣チョコレート嚢胞は大きくなると0.50.7%で癌化すると報告されており、6㎝以上の卵巣チョコレート嚢胞は手術により嚢胞を摘出したほうがよいとされています。
 卵巣は手術をした場合は卵巣の予備能力が低下するため、手術操作が加えられた卵巣は術後しばらく排卵しないことが多いです。このため、妊娠希望がある場合は4㎝未満の小さなチョコレート嚢胞であれば手術をせずに不妊治療を優先させた方がよい場合があります。
 6㎝以上の大きなチョコレート嚢胞は妊娠中に破れたり(チョコレート嚢胞破裂)感染をおこしたりすることがあるため、積極的に手術で摘出します。

 子宮腺筋症は月経痛と過多月経が主な症状で、妊娠の希望がない場合はLEPやプロゲスチンによる薬物療法が行われますが、子宮腺筋症が原因で流産を繰り返す場合や、不妊治療を行ってもなかなか着床しない場合は腺筋症を摘出する手術が考慮されます。ただ、子宮腺筋症摘出術は保険適応にはなっていません。
 腺筋症摘出術の術後の妊娠率は1770%と施設によって差があります。腺筋症摘出術後の妊娠では35%で子宮破裂が起こり胎児死亡例もあります。


根治手術

 根治手術は子宮と両側の卵巣・卵管をすべて摘出する方法で卵巣からのエストロゲンはなくなり、子宮内膜症の細胞や組織も委縮してしまいます。手術により閉経になるため更年期障害がでてきますが、更年期障害は人によってつらい場合とそうでない場合があり、症状がひどいばあいは少量のホルモンの補充を行う場合もあります。

加藤 淑子 (かとう よしこ)

産婦人科 顧問
産婦人科・周産期センター

カテゴリ:

  1. 全ての一覧

ページ
先頭へ