子宮頸部上皮内腫瘍 CINについて―9価ワクチンのシルガードが公費助成対象となりましたー

2023年08月31日(木曜日)

子宮頸部上皮内腫瘍は英語のCervical Intraepithelial Neoplasiaの訳で、CINと呼ばれています。CINは子宮の入口の表面を覆っているとても薄い(1mmの十数分の一)皮、上皮のなかにできる腫瘍で、子宮頸がんの前段階です。大部分は自然に治りますが、治らずに進行すると前がん病変となり、さらに進行すると子宮頸がんになります。CINはヒトパピローマウイルスHPVの感染が原因で、ワクチンである程度予防をすることができます。
今回はこの子宮頸部上皮内腫瘍についてみていきましょう。

以前は子宮頸がんの前段階は子宮頸部異形成で、異形の程度により軽度異形成、中等度異形成、高度異形成に分かれていました。高度異形成の次の段階が上皮内がんで、子宮頸部上皮内がんは子宮頸がんの0期という分類になっていました。しかし、異形成も上皮内がんも子宮という臓器の表面~内腔の表面を覆っている上皮のなかで起こっていることなので、異形成と上皮内癌をまとめて子宮頸部上皮内腫瘍とする取り決めが2012年にされ、子宮頸がんの0期は廃止されました。

子宮頸部上皮内腫瘍CIN3段階に分かれていてCIN1は軽度異形成に、CIN2は中等度異形成、CIN3は高度異形成と上皮内がんに相当します。そしてCIN3が子宮頸がんの前がん病変とされています。
CINはがんではありませんので、上皮内がんもがんという名前ですが子宮頸がんではなくて前がん病変なのです。このため上皮内がんはがん保険が適応されないことが多いです。



1.上皮のお話

体の表面は「皮膚」でおおわれていますが、臓器の表面や、胃や腸、子宮や卵管などの管腔臓器では管の内側は皮膚ではなく「上皮」でおおわれています。上皮は臓器や場所によっていくつかの種類があり、その役割に応じて形や構造が違ってきます。

腟から子宮の入り口(頸部)にかけて重層扁平上皮が表面をおおっています。重層扁平上皮は皮膚と同様の扁平上皮細胞が何層にも折り重なって臓器をまもっています。
上皮の外側は核がなくなって抜け殻のようになった細胞が積み重なって臓器の内部を守っていて、表面から少しずつ死んだ細胞が垢となって剥がれ落ちていきます。

上皮とその下にある間質を隔てているのは基底膜という構造で、基底膜の外側(上皮側)には基底細胞が並んでいて分裂増殖を繰り返して剥がれた細胞を補充し、上皮を維持しています。

いっぽう、子宮の内側では一層の円柱状の背の高い細胞でできた円柱上皮で覆われています。背の高い細胞は粘液を分泌する役目があり、核は基底膜側に位置し、表層側に細胞内で作られた粘液や分泌物をためています。

扁平上皮と円柱上皮の境界を扁平上皮―円柱上皮境界(S-C junction)と呼んでおり、この場所から子宮頸がんが発生することは以前より知られています。


2.CINの原因

 CINの原因はヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVが子宮頸部の上皮細胞(特に基底細胞)に感染すると、細胞の形が変わっていきますが、HPVに感染しても免疫の力でウイルスをやっつけてしまうとまたもとどおりの正常の上皮にもどります。

 HPVをやっつけることができない場合は、感染が持続し、感染した細胞は正常から異なった形となり、これを異形細胞と呼んでいます。異形細胞は核の形が大きくなったりいびつになったり、ふつうは1個の核が2個以上になったり(多核細胞)、細胞の形も不正形になり不揃いになります。上皮の中に発生した異形細胞の集団を子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)と呼んでいます。

 上皮には血管もリンパ管もありませんので、上皮の中にがん細胞がいたとしても転移することはありません。ただし、上皮の中のがん細胞がどんどん増えて基底膜を破って間質にでてくる(浸潤する)と間質には血管やリンパ管があり、血管から栄養をもらってどんどん大きくなったり血管の中に入って血流にのって別の臓器に転移したりします。子宮頸がんになるともはやHPVは検出されなくなりHPVの遺伝情報(DNA)が癌細胞のDNAに組み込まれます。


3.CINのグレード別の特徴

さきほども述べたように CINは進行の度合によってCIN1CIN2CIN3,の3段階に分けられています。
ではCIN1からCIN3まで順に見ていきましょう。

CIN1は軽度扁平上皮内病変、Low-grade Squamous Intraepithelial Lesion(LSIL)とも呼ばれていて、ヒトパピローマウイルス、HPVが基底細胞に感染してウイルスの粒子が複製されている最中の状態です。ウイルスに感染したばかりの細胞(コイロサイトと呼んでいます)や、異形の軽い細胞の集まりで 軽度異形成に相当します。
CIN1は約70%2年以内に消失し、約10%程度が5年以内にCIN2CIN3に進展すると報告されています。このため、CIN1では治療の必要性はありませんが、経過観察が必要です。

経過観察の間隔は6カ月ごとの細胞診(がん検診)が基本ですが、細胞診の判定がLSILHSILASC-Hになった場合は精密検査(コルポスコピー検査と狙い組織診)が必要になってきます。
HPVの型判定(タイピング)を行った場合で HPVのタイプが1618313335455258のいずれかであった場合は46カ月ごとに細胞診(がん検診)、それ以外のHPVもしくはハイリスクHPVが陰性の場合は12カ月ごとの細胞診(がん検診)が推奨されています。

CIN2は異型細胞が上皮内の基底膜側に集積していますが、基底膜側の2/3までで、表層は層の構造や規則性が保たれていて中等度異形成に相当します。
CIN2の5060%2年以内に消失し、約20%5年以内にCIN3に進行すると言われています。

このため、CIN2は厳重な経過観察が必要ですが、HPVの型判定(タイピング)を行った場合でハイリスクのウイルス、特に1618313335455258のいずれかが陽性の場合は治療(子宮頸部円錐切除)を考慮してもよいとガイドラインに記載されています。

CIN3は上皮の全層が異形細胞に置き換わっている状態で、高度異形成と上皮内癌が含まれます。上皮内癌は上皮の一番外側まで異形細胞が増殖しており、表層一層だけ正常細胞でおおわれているのは高度異形成と診断されます。
いずれも基底細胞層を巻き込んですべての層で異形細胞が集まって見られますが、基底膜を超えてはいません。上皮内に異形細胞がとどまっている限り、上皮内には血管やリンパ管は存在しないので異形細胞が他の臓器に転移するということはありません。
CIN3は20%程度が2年以内に自然に消えて行き、30%が2年以内に進展して浸潤癌になるといわれています。このためCIN3は経過観察ではなく治療の対象となります。


4.検査/診断


(1)子宮頸部細胞診(子宮頸がん検診)

子宮の入り口を柔らかいブラシやヘラでこすって細胞を採取し、スライドグラスに塗り付けて染色をして顕微鏡で検査します。細胞診の評価は以前はパパにコロークラス分類(クラスⅠ~クラスⅤ)が用いられていましたが、 2013年からわが国でも現在は全世界共通のベセスダシステムによる判断基準が採用されるようになりました。

ベセスダシステム

細胞診判定

意味

従来のクラス分類

推定病変

 対応

NILM

陰性
Negative for Intraepithelial Lesion and Malignancy

クラスⅠ
クラスⅡ

正常

 異常なし:定期検査

ASC-US

意義不明な異形扁平上皮細胞
Atypical Squamous Cells of Undetermined Significance

クラスⅡ
クラスⅢa

軽度異形成

 1)HPV検査を行って陽性なら精密検査
 2)6か月以内の再検査

LSIL

軽度扁平上皮内病変
Low-grade Squamous Intraepithelial Lesion

クラスⅢa

軽度異形成

 要精密検査:コルポスコープ・生検

ASC-H

高度扁平上皮内病変の疑い
Atypical Squamous cells, cannot exclude an HSIL

クラスⅢa
クラスⅢb

中等度異形成
高度異形成

HSIL

高度扁平上皮内病変
High-grade Squamous Intraepithelial Lesion

クラスⅢb
クラスⅣ

中等度異形成
高度異形成
上皮内がん

SCC

扁平上皮がん
Squamous Cell Carcinoma

クラスⅤ

扁平上皮がん

細胞診は剥がれ落ちたバラバラの細胞を見ているので、確定診断ではありません。あくまでスクリーニング検査のため 確定診断には後述の生検による組織診が必要になります。


(2)コルポスコープ検査

子宮の入り口を専用の機器で8倍~20倍程度に拡大して観察します。異形細胞は正常細胞より細胞内のたんぱく質が多く、3%の酢酸を塗布することに細胞内のたんぱく質が一時的に固まって白くみえるほか、CINになると正常より細胞が増殖して分厚くなるので、間質の血管が透けにくくなり、病変の部分はさらに白く見えます。(白色上皮) また、CINで細胞の数が増えていくと、これらの細胞を養うために間質にある血管が増えて怒張し上皮の表面に赤い点(赤点斑)やモザイク様の模様を呈するようになります。


(3)子宮頸部組織生検

生検とは臓器や組織の一部を切り取って顕微鏡で調べる検査です。コルポスコープで異常な所見が見つかった場合、異常所見がいちばん強い場所の一部を切り取って組織検査を行います。これを狙い組織診(コルポスコープを見ながら狙って生検)と呼んでいます。生検は採取する組織の大きさにより痛みを伴うことや、出血が多くなることがあります。
採取した組織はホルマリンで固定し、パラフィンに包埋したのち薄切(薄く切る)し、スライドグラスに張り付けて、パラフィンを除去、染色後に鏡検(顕微鏡で観察)して確定診断がつけられます。
診断結果はCINのグレードとベセスダシステムであらわされ、LSIL/CIN1HSIL/CIN2HSIL/CIN3のように記されます。


5.治療

CIN3は10人中3人が2年以内に浸潤癌になるといわれていますので治療の対象になります。またCIN2でもHPVのタイプが 1618313335455258のいずれかが存在する場合はCIN3から浸潤癌に進む可能性が高いため治療が考慮されます。治療は子宮頸部円錐切除術とレーザー蒸散があります。

(1)子宮頸部円錐切除術

子宮頸部を円錐状にくり抜く手術です。

子宮頸部円錐切除術はCINの治療目的で行われる以外に、子宮がんと診断された場合に子宮がんの進行の度合いを確定して、手術術式を決めるための検査としても行われます。

円錐切除に使用するデバイス(機器)は超音波切開凝固装置や電気メスです。病変が頸管の奥の方にある場合は深い円錐切除が必要になり、麻酔は腰椎麻酔、時に全身麻酔が選択されます。腰椎麻酔は麻酔後の頭痛等の問題で術後数日間は入院が必要です。

円錐切除術後約1週間前後でまれに子宮を削った部分より多量出血が起こる場合があり(これは削った部分についたかさぶたがはずれて、そこに炎症が加わると出血がおおくなります)術後1週間はあまり無理せず過ごしていただく必要性があります。
また、手術後何日間かは薄い出血のまじったみずっぽいおりものが続く場合があります。これは傷が治っていくとだんだん少なくなり、出血しなくなります。

病変が子宮の入り口だけにある場合はループ状の電気メス(LEEPシステム)で表面を削っていく方法があります。局所麻酔でも手術可能であるため、日帰りや外来でもできます。ただし、病変が広い場合は1回のストロークですべて切除できないことがあり、この場合は何回かに分けて切除が行われます。複数の組織が切除された場合はどのように生体で並んでいたかの判別が難しい場合があります。

円錐切除で得られた標本は 腹側で切り開き(右図)、通常12等分します。そのひとつひとつから切片を切り出して染色し、顕微鏡で観察して診断します。病変がすべて切片内にあれば完全に切除したことになりますが、もし切り出した端に病変が残っていれば身体にも病変がのこっていると考えます。ただ、切除する場合の熱で残っている病変は焼けてなくなることもありますので、注意深いフォローアップが必要です。

円錐切除によりCINが完全に切除され、原因であるHPVも消失した場合は完治となりますが、HPVが残っていると再発の可能性がでてきます。このため円錐切除後は切除面の傷がきれいになおってから(通常3か月くらいかかります。)細胞診(頸がん検診)でフォローしていきます。再発した場合はその程度により経過観察か再度円錐切除を行うか、子宮全摘出術をするかを決めます。

CINは20代~40代の若い人に多く、子宮頸部円錐切除も当然若い人に多い治療です。この時問題になってくるのは円錐切除がそのあとの妊娠、分娩に多少なりとも影響するということです。
病変が奥の方で深い円錐切除を行うと頸管内の頸管線も摘出してしまい、精子を迎え入れる頸管粘液が不足すると妊娠しにくくなる場合があります。また子宮の頸部の長さが円錐切除によって短くなるため、妊娠が成立した場合流産や早産の危険性が若干増加します。


(2)レーザー蒸散

レーザー蒸散は、高エネルギーレーザーを用いて組織に照射することにより瞬時に水分が蒸発して細胞や組織が破壊されて消滅する治療法です。狙ったところだけ細胞を破壊しますが、周囲の正常な組織への影響は最小限に抑えられるため、病変の範囲だけを対象にすることが可能です。
円錐切除のように深く頸部を切除しないため、術後の早産リスクは円錐切除にくらべて少ないといわれています。(早産リスクが全くないわけではありません。)

レーザー蒸散は、複数回の組織診で確認されたCIN3で,病変の全範囲がコルポスコピーできちんと確認でき,頸管の中に病変がない場合,若年女性に限って行うことができます。なぜなら、レーザーで焼ききってしまうと検査するべき組織はなくなってしまうので、術後の診断ができないからです。病変が完全に焼かれたかどうか、残っていないかどうかがわからない上に、CIN3であると診断していても実は浸潤癌が隠れている可能性もあり、そのような場合はレーザー蒸散だけでは治療できないからです。

施術時には痛みが伴いますので子宮頸部の局所麻酔で対応します。このため入院しなくても日帰りでも受けることができます。

治療後は、一時的な軽い痛みや不快感があることがあります。また、円錐切除と同様で薄い出血のまじったみずっぽいおりもの何日か続く場合があります。術後1週間前後は焼き切ったところのかさぶたがはずれて、出血が起こる場合がありますので、円錐切除と同様、術後1週間ぐらいまでは無理をしないように気を付けていただく必要性があります。

なお当院ではレーザー蒸散は行っておりません。


加藤 淑子 (かとう よしこ)

産婦人科 顧問
産婦人科・周産期センター

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